[通常モード] [URL送信]

彼は新世界の魔王になる
狭間の世界
 ――全部全部っ、礼一が悪いんだ!!
 礼一が俺達に謝れば許してやるよ。
 だって礼一は……、

「俺の都合のいい人形なんだからなっ」

 煩い……。よりによってアイツの夢かよ。
 二度とあの面を見ることがないよう、決死の覚悟で飛び降りたというのに。死んだ人間の夢の中にまで現れるとは、どこまで図々しい奴なんだ。
 仄暗い闇の中に現れた稲葉はゲラゲラと嘲笑いながら、誰かの手を引く。
 その人物はある意味一番忘れ去りたいもの。

「……っ、会長…………」

 どこまでも果てしない敵意を篭めて睨みつけてくる会長に、俺は思わず胸元をギュッと握り閉めた。
 何故、俺はこんなにも苦しいんだ?
 会長に対しては憧れていた、ただそれだけだったはずなのに。
 じゃあ、この頬に流れるものは、一体何なんだ?
 胸の痛みに気付かない振りをする俺を尻目に、稲葉は会長に甘えるようにしなを作る。

「もう……やめてくれ」

 もう充分だろ? お前は大嫌いな俺を死に追いやることができた。会長は大好きな稲葉との時間を邪魔する俺を、永遠に消し去ることができた。

「まだ、苦しめと……? 未来永劫苦しめと言うのか、お前らは」

 殺してやりたい程憎んでいた俺の前で、こんなにも楽しそうに笑って……。
 何で、俺だけ苦しまなきゃならない?
 俺を『殺した』あいつらは、あんなにも幸せそうにしてるじゃないか!

 憎い……憎い憎い憎い!!!

「俺に力があれば、あったならあいつらに復讐してやれるのにっ!!」

 涙で視界が霞んでくる。
 次から次へと溢れだす涙を拭っていくうちに、手に違和感を覚えた。
 あれ? 俺ってこんなに手、大きかったっけ?
 そういえば俺の声、心なしかいつもよりも男らしい低音ボイスな気が……。
 いや、これは夢の中なんだから、きっと何でもアリなんだろう。散々、男らしい色気あふれる声とか顔、身体に憧れてたから最後にこんな良い思いさせてくれてるのかもな。だったら、なんで稲葉達を見せるんだって話だが。
 変なとこ融通が利いたり利かなかったりだな。
 夢のくせに、しかもあの世で見てる夢なのに何て芸が細かいんだ。

「それはここがあの世でもなければ夢でもない、狭間の世界だからですの」

 突如響いた声と共に、暗闇が一気に眩いばかりの白一色に塗り潰される。
 それに伴い白い空間から浮き出るように、白いフードを眼元まで被った少女が現れた。
 年の頃は十二歳ぐらいか? 不気味な姿に反し、声はとても愛らしい。

「きっ、君は誰? それにここは一体?」
「だーかーらー、言ったでしょう? 狭間の世界だと。向こうの世界で死のうとしてた貴方を、慌ててこちらの世界に引き戻した私を褒めて欲しいものですわ」
「戻した? えっ、えっ!?
それ一体どういう意味!?」
「あれこれと質問が多いですわね。
まず一つ一つ答えて差し上げますから、質問は後にして下さいまし」
「うぅっ、……すいません」

 混乱の余り、つい一方的に聞きすぎてしまったようだ。申し訳なさから軽く頭を下げると、少女は気にするなと言わんばかりに横に手を振った。
 こんな年頃の女の子ですら思いやりがあるというのに、稲葉達ときたらどれだけ人間オンボロなんだ。
 本当に実年齢通りなのか、いや人間ですらないかもしれないこの子と奴らを比べてしまう辺り、相当俺は疲れてるのかもな。

「あら、思いやりがあるなんて、嬉しいこと言って下さるのね?
でも貴方の方がずっと心優しく思いやりのある方だと思いますけど」

 いきなり思ってたことを突かれた俺は、白い少女の顔を穴が開くほど見つめる。

「きゃっ、いやですわ! そんな良い殿方から見つめられたら私……。
あら、いけないっ、話の途中でしたわね。種明かしをすれば、私はこの狭間の世界を司る神ですの。
ここは全ての魂達をあるべき場所に選定するための、まあ待合室みたいなものですわ。
当然ここは私のテリトリーですから、この場にいる魂が心の中で何を思っているかは全部筒抜けですのよ」

 語尾にハートでも付きそうな可愛い口調でとんでもないことを言う。
 何てこった! 死後の世界でまさかこんな羞恥プレイが待っていようとは!!

「はいっ、ストップ!! 今からでも遅くないんで、俺の繊細なガラスのハートを覗かないでください!!!」
「無理ですわ」
「即答かよっ!!」
「もお、ちゃんと聞いてました?
ここは私のテリトリー、つまり部屋そのものが私自身なのですのよ? 
いくら貴方が嫌がっても、魂が神である私に自分を偽ることはできない仕組みになってるのです! 
これは死後の魂の行き先を正確に判断するためですから、貴方個人の勝手でルールを曲げることはできないんですのよ。お分かり?」

 呆れ返りながらも厳しい口調で懇々と諭されれば、俺は渋々納得するしかなかった。
 確かに彼女の言うことには一理ある。
 生前罪を犯した極悪人がうっかり天国に紛れ込んでしまったら、そいつによって天国は途端に地獄へと変えられてしまうだろう。
 そんな穢れきった魂には地獄で己の犯した罪と向き合わせるのが妥当だ。

. 

[*前へ][次へ#]

6/21ページ

[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!