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彼は新世界の魔王になる

「誰が嘘をつくか! 残念だったなあ、魔王。
復活早々、光の勇者様と光の神子様の降臨を耳にするとは、運も貴様を見放したようだぞ?
今世の神子様である稲葉秋兎様と、勇者、暁黒斗様のお力さえあれば貴様など一網打尽よ」

 得意げに言い放った兵士は、顔色を変えた俺を、恐れをなして怯えていると勘違いしたようだ。
 他の兵士達もそれに勇気づけられ、俺に挑発的な笑みを向けてきた。
 正直、俺はそれどころじゃなかった。
 何で、あの二人が――

「どうして稲葉と、会長がここに……?」
「会長? お前、勇者様のことも知ってるのか!?」

 怪訝そうに兵士が顔を顰める。
 ああそうさ、知ってるさ。ついさっきまで顔を突き合わせていたんだから。
 この新しい世界でやり直そう、生き直そう。
 そう思ってたのに、またあの二人と関わらなければならないのか?
 急に胸が苦しくなり、思わず胸元をぎゅっと握りしめる。
 ――礼一が悪いんだぞ! ちゃんと自分が悪いことを認めないから!!

「やめろ……」

 ――一緒に行きたくないだなんて我が儘いうなよ!
黒斗達がせっかく特別ルームで食べていいって言ってくれてるのに!! みんなの好意を受け取らない礼一はサイテ―だ!!

「やめろっ、やめてくれっ……! 何でっ、何で俺なんだよ?
俺は一緒にいたくないって言ってるのに。
生徒会の人達は俺のこと嫌ってるから、一緒に行かないだけなのに何でわかってくれないんだよ!」
「は……? クロウ……レッド?
お前、さっきから何を言って――」

 あいにく混乱していた俺は、この時は誰の言葉も耳に入っていなかった。学園にいたときの辛い記憶がフラッシュバックし、いっきに弾ける。
 
「やだやだいやだあぁぁぁ――!!!
もう俺に関わるな!! ほっといてくれ!
大嫌いな俺が死んで嬉しかったんだろ!?
ならもう俺に近づくなよ、稲葉!!
会長も邪魔な俺が死んだんだから、これからは稲葉と幸せに過ごしてればいいじゃないか!
なのにどうして……」

 ここまで追ってくるんだよ……。
 
 力なく呟き、黙って俯く。地面にポツリポツリと水滴が落ちた。
 ああ、俺、泣いてるのか。
 最後の最後でさえ泣かなかったのに、どうして異世界の人達に殺されそうなときになって泣いてるんだよ。
 じゃりっと砂を踏みしめる音が俺の前で響く。
 下に向いた視界からでも剣先が俺に向けられてるのがわかった。
 もういいや。もともと死ぬつもりだったし、この世界に来てまであいつらに苦しめられるのは耐えられない。
 あいつらの手にかかるぐらいなら、いっそ見知らぬ他人に殺されるほうがまだましだ。
 兵士が剣をゆっくり振り上げる様が俺の目に映る。
 これで全て終わるんだと思い、俺は静かに瞼を閉じた。

「おいおい、勝手な真似されちゃ困るぜ?
こっちは色々聞きてえことがあるのによぉ」

 突如、見知らぬ男の声が頭の上から降ってきた。
 同時に、俺に振り下ろされようとしていた剣が赤い光弾によって弾き飛ばされる。

「何者だ!?」

 いきり立つ兵士が辺りを見渡しながら叫ぶ。
 他の兵士達も慌てて声の主を目で探す。

「ここだぜ、間抜けなインデウィア兵さんよ」
「なっ!? がはあぁっ!」

 一瞬のことだった。俺の前に立っていた兵士の頭を、上から長い足が蹴り飛ばしたのだ。
 兵士は派手な音を立てて、地に倒れ伏す。

「シゼル! 貴様ぁっ、よくもシゼルを!!」

 仲間の兵士達が怒りに目をぎらつかせる。
 そんな空気をものともせず、空から降ってきた男はゆらりと立ち上がった。
 その姿形を見て、驚く。
 やや長めのダークグレイの髪の頭部から生えているのは狼に似た耳だった。顔もまさか動物みたいな容姿なのかと思いきや人型で、元の学園でも見たことがないほどの美形だった。
 男らしいを通り越して悪そうなというか、危険な香りを放つ顔立ちなのが、元平凡のコンプレックスを刺激してくれる。橙色の鋭く切れあがった眼は、常に獲物を求めて飢えているようだ。
 服装はインデウィア兵とかいう人達と違い、意外にも俺達の世界に近い出で立ちだった。
 黒革のジーンズっぽいものに、黒い革ジャン。
 後ろからは尻尾が出せるようになってるらしく、これまた狼じみた長い尾がゆらりと左右に揺れている。
 インナーはブルーグレイの胸元の大きく開いたシャツを着用し、そこからゴツいシルバーアクセサリーらしきものが見える。気のせいか狼の形の装飾品だ。

「おい、お前。さっきから何をしてやがる。
ボヤボヤしてねえで、お前も戦え!」
「へ? あ、はいっ!!」

 ぼーっと眺めてたら狼男さん(仮)に怒られてしまった。慌てて、再び構えを取る。
 さっきまで死にたいと思っていたのに、今は生き残りたいという気持ちに変わったのが我ながら不思議に思う。

「良い眼になったじゃねえか。よぉし、行くぞ!!」
「はい! グラビティ・クラッシュ!!」

 襲いかかってきた残党に、再び俺は攻撃魔法を放った。
 俺が術を使っている間に狼男さんは舞うように銃弾を放って行く。一見ただの銃に見えるが、その大きさは彼の身長と変わらないぐらいだ。
 それもそのはず、彼の銃は大きな片刃剣と融合した造りになっていた。本当にゲームにしか出てこないような武器だな、現実にないってこんなもの。
 ファンタジーを体現しきった男を眼の端に映しながら、俺もまたファンタジー世界の住人らしく、手に黒い光を集め、一気に残る兵士達をなぎ倒して行った。



 
 

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あきゅろす。
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