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彼は新世界の魔王になる

 なるだけ気配を消して、道の脇にある大木に身を隠す。俺の姿が消えた途端、一人二人と赤銅色の甲冑を着た兵士らしき人が駆けてきた。
 まるで忍者みたいだ。しかもあんな重そうな甲冑付けてよく走れるよ。
 もし彼らと戦闘になったら死亡フラグ立つ、絶対。
 いつの間にか全員揃った兵士達を観察していると、何やら部下らしき兵士が上官とおぼしき兵士に報告していた。耳を澄ませて彼らの会話に集中する。

「一体、どうなってる!? たしかにクロウレッドはここにいるんだろうな?」
「はっはい! 間違いありません、隊長。
魔王の放つ星魔力(せいまりょく)独特の派動が感知されているのはこの地点なのですが……。
どうやら魔王が一枚上手だったらしく、我らの気配に気づき、己の魔力を最小限に抑えてるようです」
「くそっ、忌々しい悪魔め!! 先代の身体が勇者の犠牲によって、ようやく破壊されたというのに!
奴を殺しても、何度も何度も同じ姿で転生してくる。
一体、いつになれば魔王クロウレッドを消滅させることができるんだ!?」
「奴は転生悪魔……、何度殺しても甦る存在です。
しかも魔王としての記憶を保持したまま復活するため、以前クロウレッドに通用した手段は二度と使えなくなってしまう。
特に今世の魔王は、前回の勇者が最後の切り札を使い果たしてしまったため、歴代最凶と言われています。
光の勇者様が転生していたのは幸いですが、幻の『銀月の神子』がいなければおそらくは……」
「だっ黙れ、非国民が!! 我らが勇者様が魔王に敗れるものか! それに光の神子様が真のお力を取り戻されれば、銀月の神子様がおらずとも勝利は我らの手の中よ!!」

 さっきから話すたびにボルテージの上がる上官に、ひたすら部下達は賛同するしかない。
 ああいうワンマンタイプって人望ないんだよなあ。
 無駄に威張り散らして、部下に責任だけは押し付けてそうだ。
 まあ本音を言わせてもらえば、彼らの職場事情などどうでもいい。聞き捨てならないのは、兵士達の話していた内容についてだ。
 
「あの話の流れからして、彼らが捜してる魔王って……俺じゃないか?」

 気配消したこととか、彼らが俺目掛けて進行方向取ってたことといい、間違いなく俺のことだろう。
 魔王クロウレッド、確かに彼らはそう言っていた。
 クロウレッドってなんだよ、元の俺の名前一欠片も残ってないじゃないか。

 自分ではない可能性に掛けたいけど、いきなり使えるようになった魔法とか漆黒の翼が俺を限りなく魔王であるという方程式に導いている。

「否定したい、全力でっ」

 もう嫌だ、異世界に来てまで迫害されるのは。
 ついさっきまで稲葉とその信者達に苦しめられ、今度は異世界で魔王扱いなのか?
 なんで俺ばかりがという憤りに憑かれ、無意識に身体を震わせる。それがいけなかった。

「む、誰だ! そこにいるのは!!」

 まずいっ、つい草むらで音を立ててしまった。
 こちらに気付いた兵士達がぞろぞろと俺の隠れている所へ近づいてくる。このまま隠れていても見つかるのは時間の問題。ならばこちらから打って出るまで!
 意を決し、俺は大木から姿を見せた。

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あきゅろす。
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