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彼は新世界の魔王になる
強制的にGood-bye!
 誰だって平穏無事に生きていたい。
 それは人として当然の要求のはずだ。

 なら、何故俺は――

「礼一! 何でみんなと仲良くしないんだよ!!
礼一がちゃんと心を開かないから、みんなが離れていくんだぞ!?」

 こんな理不尽な現実に耐えなければならないんだ?


★ ★ ★

 彼がやってきたのは季節外れの5月だった。
 季節外れの転入生、しかも高等部に入ってきた外部生だ。
 全寮制で小中高一貫の男子校と来れば、途中編入の生徒は物珍しく映っただろう。
 かく言う俺、嵯峨 礼一(さが れいいち)も高等部からの入学だが、半年経った今でもこの学校の校風にはいまだに慣れない。
 高校入学してきた外部生が僅か15名な上、物珍しさから中等部持ち上がり組にじろじろと不躾な視線を寄越されたら、誰でも居心地悪くなるだろうよ。
 
 まあ、今はどうでもいいことだ。
 季節外れに転校してきたこと、それは取り立ててどうこう言うつもりはない。事情なんて人それぞれだ。
 問題なのはこの転校生が筆舌に尽くしがたい程、非常識なトラブルメーカーで……最悪なことに俺の隣の席の人間になってしまったことだった。
 初めて会った時の衝撃は今でも忘れない。
 黒板の前で自己紹介する奴の姿は、栗色の軽くウェーブのかかった髪に海のように蒼い眼の、見た目だけは極上の天使だった。
 だが重ねて言わせてもらおう、見た目だけだ。
 こいつのせいで俺の平穏無事な学生生活は一気に地獄へと変わってしまったのだから。
 
「俺、稲葉 秋兎(いなば あきと)って言うんだ!
なあっ、お前何て言うんだ!? 何だ、恥ずかしがってんのか!? 遠慮すんなって、俺達もう友達だろ!」

 会って早々言われた言葉がこれだ。
 は? 友達って誰と誰がだ?
 その前に初めて口聞いた人間同士で何ですぐ親友扱いになるんだよ。おかしいだろ?
 以上の言葉をバットで打ち返すが如く放ってやれば、 

「何でそんな酷いこと言うんだよ!!
友達には優しい言葉を掛けなきゃダメなんだぞ!」

 と、無駄にデカイ声で訳のわからん屁理屈を捏ねてきた。
 わざわざ大声で話すこともなかろうに。耳でも悪いのだろうか?
 ふと刺すような視線を感じると、転校生の脇に何時の間に作ったのか稲葉の友人である爽やかスポーツマンと、滅多に授業に来ない不良君が俺を睨みつけていた。

「おい平凡……、せっかくアキが話掛けてやってんのにその態度は何だ」
「何か一言ぐらい言ったらどうだよ。
アキもなんでこんな無愛想な奴を……」

 平凡ってなんだよ、顔で人を選ぶ辺り相当性格ねじ曲がってるぜ。確かに特別カッコイイ顔じゃないが、言うほど悪い顔では無いはずだぞ。
 しかも、いつの間にか俺、悪者扱いだし。

 この時は結局、俺は謝らず、稲葉の友人……いや信者二人は俺を罵りながら、半べそをかく稲葉を慰めるに留まった。
 だがこれは全ての始まりにしか過ぎなかったんだ。

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あきゅろす。
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