獣神戦隊マイスマン 新たな覚醒者 息を喘がせ、一人の女子高生がもつれる足で必死に走り抜けていく。 後ろから追いかけて来る赤黒い鏡を撒こうとするが、相手の速度は衰えることがない。 ふと視線を横にやると、警官達が警戒態勢で通学路を巡回しているのが見えた。 「助けてぇっ、刑事さん!」 懸命に声を張り上げ叫ぶが、何故か近くにいるにも関わらず警官達に少女の声は届かない。 必死で駆け抜ける少女を嘲笑うように、後方にいたはずの鏡が前方に立ちふさがってきた。 余りの恐怖に少女はおののくことしかできない。 「嫌ぁっ! 誰かっ、誰か助けてえぇぇ!!」 「ククッ、いくら助けを呼ぼうが無駄なこと。只人にはこの空間は見えぬ。 さあ、お前も我が君の贄(にえ)となれ!」 手を伸ばし、ミラーシンマは己が身に少女を取り込もうと手を伸ばした。 「待ちやがれ、神魔!!」 空気を切り裂く鋭い声が神魔を捉える。 突如乱入してきた輝夜達に、ミラーシンマはうろたえた。 「馬鹿なっ、何故只の人間がこの空間を見つけられたのだ!?」 「この子の声が聞こえたからさ。生きたいって言う命の叫びがな!」 絶望していた少女の眼に再び光が戻る。 助けが……私の声が届いてた! 「ええいっ、邪魔をするな! 人間風情がぁっ」 鏡面に光を集め、一気にビームを放つ。 瞬時にその場から駆けて攻撃を避けると、輝夜と智史でミラーシンマ目掛けてそこらに転がっている石を投げつけた。 「くうぅ〜っ、このクソガキ共ぉ! ハアァッ!!」 彼らの挑発行為に乗せられたミラーシンマは、次々と光線を放っていく。 「さあ、今のうちにここから逃げて!」 「でっでも、ここからは出られないってあの化け物が! それに貴方達もここにいたら殺されちゃう!」 「私達なら大丈夫だから。ほら、ここからなら出られるよ。 危なくなったら逃げるから、私達を信じてよ。ね?」 世那達が入って来たところから別の景色が見える。そこは先ほどまで少女がいたはずの通学路だった。 少女は世那の眼を見つめる。世那を信じ強く頷くと、少女はこの空間から脱出した。 世那が女子高生を安全な所まで逃がしたのを確認すると、二人は挑発行為を止める。 「はっ! し、しまった、奴らは囮か!」 三人の作戦に今頃気づいたが後の祭り。 このままではダキニ様に申し訳が立たない。 せめて作戦失敗の元凶であるこ奴らを新たな贄にしてやる。 やけくそになったミラーシンマは鞭のような光線を放ち、矛先を三人に変えた。 「ハッ、今度は俺達を捕らえるつもりか?」 「しつこい男は嫌われるよー」 続けて智史が茶化す。元来冷静な性格ではないのか、鏡面に血管らしきものが浮き出た。 「貴様らあぁ、この美しいわたくしを愚弄するとは無礼な!!」 「うへぇ、今度の敵はナルシストなわけ? どうしよう、本格的に関わりたくないんだけど」 鳥肌が立ったのか、慌てて世那は腕を擦った。 迫りくる神魔を前に、輝夜達はギンと鋭い眼で奴を睨みつける。 輝夜が右手を胸の前で握り締めた。 「みんな……っ、いくぞおぉぉ!!」 『おう!!』 『獣神覚醒!!』 三人の身体が焔に、水に、光に包まれる。 僅か数秒でそれらは四散し、三色のプロテクターに包まれた戦士が現れた。 だだのガキだと思っていた人間が、仇敵である守護獣神に変化しミラーシンマは驚愕する。 「何!? 貴様らがマイスマンだと! まさか本当に人の姿へ転生していたとは……」 驚いていたのは神魔だけでは無かった。 三人の後を追って異空間に入り込んでいた沙夜子と勇人は、電柱の陰から三人の変身を見て愕然とする。勇人が呟いた。 「嘘だろ? 星川の妄想じゃなかったのかよっ」 「そんな……。世那達が隠してたのってこれの事だったの?」 俄(にわ)かに信じがたい光景を前にして、混乱する頭を整理しようとするが上手くいかない。 感情が理性に追いつかないまま、二人はただそこで固まっていることしかできなかった。 隠れて見ている二人に気付かず、輝夜達は名乗りを上げる。 「勇猛なる炎の騎士、マイスレッド!」 「轟く大海の騎士、マイスブラック!」 「清浄なる光の騎士、マイスイエロー!」 左手を握り締め、それを輝夜は胸の前に掲げる。 「闇を切り裂く、大いなる大志!」 『獣神戦隊マイスマン!!』 右手の掌を前に突き出すお決まりの名乗りを挙げ、堂々たる参上を遂げた。 目的の守護獣神が現れたことに驚く反面、神魔は内心ほくそ笑む。 「クックック、ようやくお出ましのようですなぁ。 わたくしはミラーシンマ! 皇帝陛下のため、貴様等を供物として捧げてやるわ。 さあ、マイスマンッ! 残る守護獣神の居場所も吐くがいい!! さもなければ――」 鏡の奥から誘拐された生徒達の姿が浮かび上がった。 助けてぇ――っ! 怖いよう……。 苦悶の表情に歪む生徒達を見て、彼らは声を失う。 「どうするマイスマン。お前達が迷っている間にも、こ奴らの生気はどんどん消え失せていくぞ?」 ミラーシンマから突きつけられた要求に輝夜は悔しさで拳を震わせる。 「レッド! こいつの言う事を真に受けるなっ。 どっちにしろ奴は僕達を倒した後、人質をも殺すつもりだ!」 「だがブラック、ここで俺達が抵抗したら人質が…っ」 「待って、何か方法があるはずだよ! あの神魔の弱点さえ見つければ。……よし!」 ミラーシンマの挙動に注意を払いながら、世那は自身の面に右手をかざした。 「サーチアイ!」 麒麟の眼が黄色に輝くと、世那の眼前にミラーシンマのデータが浮かび上がる。事細かにミラーシンマの身体を分析すると奴の顔面に赤い丸印が点灯した。 「見つけたっ! レッド、ブラック、奴の顔面を一斉に叩くよ!」 「了解! 奴の顔面にぶち込めばいいんだな? いくぞ、絶・龍炎刃!!」 右手に召還した紅き日本刀を手に、輝夜は一気に駆け出す。 「ハアッ!!」 一直線に刀を凪ぎ払い、生み出された焔の刃がミラーシンマ目掛けて駆けた。 「ぐぬぅ……小癪な! 魔天鏡光(まてんきょうこう)!!」 輝夜の剣戟を防がんと漆黒の鏡面に邪気を込め、一気に黒い光線として放つ。 「来たなっ、水蛇裂破槍!」 待ってましたとばかりに輝夜に向かう攻撃を、槍から放った智史の水蛇達が飲み込んでいく。 盾となる攻撃を封じられたミラーシンマは顔面に焔の刃と水蛇の牙を受けた。 「ぐっ…ぬおぉあぁぁ!!」 凄まじい衝撃でミラーシンマの力が一時的に弱まった。 「今だ、イエロー!」 「オーケー! 麒麟光舞陣!!」 召還した光の鎌を掲げ、ミラーシンマの周囲を光輝く魔法陣で取り囲む。 ドンと杖のように打ち下ろし術を作動させると、神魔の苦悶の絶叫と共に鏡に閉じ込められていた生徒達が飛び出してきた。 「さあ、今のうちに逃げるんだ!」 「あ、ありがとうレッド……」 安全な所へ人質を誘導させると、輝夜達は再びミラーシンマと対峙する。 「さあ、これで打つ手は無くなったぞ。大人しくお縄についてもらおうか!」 「フッ……、クククッ」 「……何が可笑しい?」 不気味な含み笑いを起こすミラーシンマに輝夜は警戒を強める。 「馬鹿め。我は鏡の魔物ぞ。 ここにあるようで存在せぬモノ。――これ即ち」 何かに気付いた智史が輝夜に向かって叫ぶ。 直後、激しい痛みが輝夜の左肩を襲った。 「うぐっ……!」 酷く焼け焦げた肩を押さえつけ、自分に奇襲を掛けた敵を見据えようとする。 前方を見た彼らの眼に飛び込んできたもの、それは――。 「……鏡像なり」 もう一体のミラーシンマだった。 二体に分かれし魔物は前方から、もう一人は後方へ移動しマイスマンを黒い光の方陣で囲む。 「しまった……!」 『マイスマン、今度は貴様等が命乞いをする番だ! 食らえっ、ダブル魔天鏡光!!』 『うわああぁぁっ!!』 前後から放たれた稲妻の邪気がマイスマンの体を引き裂いていく。 「さあマイスマン、少しは他の守護獣神の居場所を吐く気になったか?」 「っつぅ……知るわけないだろ、んな事」 「例え知ってたとしても、教える気は毛頭ないっ!」 『ほう、ならばこのまま死に絶えるがいい!!』 更に力を溜め、ミラーシンマは黒い稲妻の強度を上昇させていく。 敵の猛攻に三人のプロテクターがひび割れ、火花が飛び散った。 『ああぁぁぁ――!!!』 「世那っ、星川君、結城君!!」 仲間の危機を前に、沙夜子は矢も立てもたまらず飛び出した。 「あっ馬鹿! 今出てったら……チッ」 仕方なしに勇人も沙夜子に続く。 いるはずのない二人を眼にして、マイスマンとミラーシンマは驚愕した。 「嘘……っ、何で沙夜子と空蓮寺がここに!?」 「しかも俺達の名前まで呼んでたぞ。まさか」 変身するところを見られてた!? 三人の顔からサァーッと血の気が引いていく。 いやそれは無いだろ、俺達の空耳だってきっと! 「聞こえる、世那!? ねえ星川君っ、結城君も!!」 「おい聞こえてんだろ、ダメガネども! 返事しねぇと仕事させるぞ!!」 気のせいじゃなかったああぁ!! しかも何でよりによってアイツまで!? 再度呼びかけてくる沙夜子を前に輝夜達は観念せざるを得なかった。 決して空蓮寺の脅しに屈した訳ではない。 ギギギと錆び付いたネジのように顔を向ける三人。 「良かった、聞こえてたのね。 待ってて、すぐに助けるから! さあっ、今こそ生徒会長の出番よ!!」 「待て待てぇっ! 白鳥達はともかく、何で俺が星川まで助けなきゃならねえんだ!」 「そんなこと言ってる場合!? 少しは素直になったらどうなの?」 「はっ? 何がだ。俺はあのダメオタクがウザイからそうしてるだけで……」 「貴方……、一々煩いわよ? 目の前で人が殺されそうだというのにっ。 ここで見殺しにしたら東京湾に沈……訴えるから!」 「今の副音声は何だ!? お前性格変わってるぞ……。 あーくそっ、わかったっての! ただし、奴には貸し一つ付けるからな!」 忘れずに憎まれ口を叩くも、勇人は転がっていた石を手に取りミラーシンマに投げつけた。 所詮人間の悪あがきと鼻で嗤い、ミラーシンマは軽くはたき落とす。 「ククッ、小僧。馬鹿な真似は止めるのだ。 安心しろ。お前もあの小娘もマイスマン共々、陛下に献上してやろう。ありがたく思うがいい」 「一回ぐらい避けただけで調子に乗んなよ、クソがっ。 てめえの下につくと考えただけで虫唾が走るぜ」 「何!? 我らの温情を無下にしおって……ハアアッ!」 鏡面からビームを放つが、持前の反射神経で勇人は飛び退る。 「空蓮寺ぃ!!」 「余所見をしてる場合か? 小娘」 「!!」 もう一体のミラーシンマが沙夜子の背後に迫っていた。 鞄を武器に応戦するが、ミラーシンマは力のない沙夜子が抵抗する様を緩い攻撃を加えながら愉しむ。 二人に危険が迫りながらも、ただ見ていることしかできない悔しさがマイスマンを苛んでいた。 「くそっ、何が守護獣神だ! こんな肝心な時に限って……!!」 苛立ちをぶつけるように、輝夜はドンと黒い障壁を力任せに叩く。 「戦う力のない君達が相手をするなんて無茶だ! 頼むっ、僕達のことはいいから逃げてくれ!」 「お願いだから、沙夜子! 空蓮寺っ、あんたも沙夜子を連れて逃げて!!」 半ば泣きそうな声で懇願する二人に勇人は挑戦的に笑った。 「おい、勘違いしてんじゃねーぞアホども。これは俺に売られた喧嘩だ。 売られた以上は落とし前付けんのが俺の流儀なんだよっ!」 先ほどからギリギリで攻撃を避けているが、ところどころ制服は切り裂かれているのが三人にはわかっていた。 つうと勇人の頬に一筋、傷から血が流れる。 思わず輝夜が叫んだ。 「……っの馬鹿が! これは喧嘩とは訳が違うんだぞ! 死にてえのかバ会長!!」 「死なねえよ!!」 「!」 「てめえを好きに扱っていいのは俺だけだ! だから俺の所有物を勝手に扱ったこいつらに礼参りしてやるんだよ!!」 「あぁ!? 勝手なこと抜かすな! 後で覚えてろよ……」 どすを利かせた輝夜の一言に勇人はフッと口角をつり上げる。 続いて沙夜子も、所々切り裂かれ傷を負っていながら気丈に声を張り上げた。 「空蓮寺のふざけた言葉はともかく、こんな所で私達は絶対死なないわ! 約束するわよ。貴方達を助けて、この悪趣味な怪人を倒すってね!!」 その強い瞳に気圧され、三人は眼を見張る。 その時だ。輝夜の懐にしまっていた二つの腕輪が光を放ち出した。 強烈な閃光にマイスマンを始め、ミラーシンマ達も眼を覆う。 腕輪は輝夜の手を離れ、沙夜子と勇人の元にそれぞれ飛んでいった。 それを見届けた世那は二人に叫んだ。 「その腕輪に何か御守りにしてる玉をはめ込んで!」 直感的に沙夜子はお守り袋から白い石を、勇人は胸元にしまっていた蒼(あお)い石を取り出した。 迷わずそれを腕輪の窪みに嵌めこむ。 カチリという音と共に玉が強く光を放ち出した。 玉に呼応するように沙夜子の眼が白く、勇人の眼が蒼く輝き出す。 白い光と蒼い光が溢れ二人を包みこんだ。 光に包まれると、二人の中に覚えのない様々な記憶が流れ込んでくる。 白き狼……蒼き獅子鷲(グリフォン)、そして――。 覚醒のキーワードと共に、二人は己が何者かを思い出す。 『獣神覚醒!!』 白い砂塵が舞い上がり沙夜子の身体を飲み込む。 勇人の腕輪からは蒼い神風が巻き起こり、彼を中心に渦を作った。 二匹の獣の雄叫びが上がり、白き狼と蒼きグリフォンが光となって宙に舞い上がる。 再び地上に舞い戻ると、砂塵と風が四散した。 砂塵が晴れた場所から、世那同様スカート付きの白いプロテクターに包まれた沙夜子が現れる。 面は狼で、頭部の側面には三日月が象られていた。 風の止んだ場所には蒼いプロテクターを身に纏った勇人が立っていた。 頭部の側面に鷲の翼が付いたグリフォンの面を装着している。 まるで最初からそうであったように、二人は戦士として名乗りを上げた。 「我は慈悲なる大地の騎士、マイスホワイト!」 「同じく気高き風の騎士、マイスブルー!」 二人の背後から二体の獣神が立ち上り、凄まじい咆哮が轟いた。 . 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