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猫の守護神さま!
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 四方八方から伸ばされる手を叩き落とし、身を捩りながらできるだけ距離を取る。
 俺を捕らえるのが難しいと踏んでか、今度は海里にも魔の手を伸ばすも素早く避けられていた。
 あの転校生からしょっちゅう絡まれてれば回避能力も上がるってもんだ。
 それでも多勢に無勢なため、徐々に俺達は壁際へと追いやられていく。

「はい、捕まえたあ! ったく、平凡の癖にすばしっこいな。お前のせいで無駄に時間喰っただろうがっ」
「がはぁっ!」

 無理やり海里の腕を引きずると同時に、その勢いで彼の鳩尾に膝で一撃を入れた。
 
「海里! てめえら、とっとと離せ!!」
「へえー、名前呼びってどんだけ親密になってんの?
そんなに大事なオトモダチなら会長が代わるかぁ?」

 悪びれもせずにゲラゲラ笑う姿に、怒りで視界が真っ赤に染まる。
 ここまで深い怒りを抱いたのは、晃が階段から突き落とされて以来だ。
 海里を助けに行こうにも、次から次に殴りかかってくるため中々辿りつけやしない。
 俺が数人を蹴り飛ばしている間にも、海里への暴行は激しさを増していく。
 何度も何度も容赦なく蹴りを入れる連中に飛び掛ろうとすれば、横から飛び出してきた奴らによって壁に叩きつけられてしまう。

「くそぉ、海里を離せよ!」

 倒しても倒してもキリがない。
 しばらく戦っているうちに、奴らが体力を消耗している様子が見受けられないことに俺は気付いた。
 俺に殴られ倒れた奴らは例外なくしばらくは動けないはずだ。
 だというのに、こいつらはまるでゾンビのように再び俺に襲い掛かってくる。
 これではただの操り人形ではないか。
 
「操り人形といえば、まさか」

 額から黒い霧が出て行った鹿島、俺を無理やり犯した貴船・・・・・・全員の共通点は森ノ宮の取り巻きであることだ。
 そうだ、俺達を襲っているF組のトップは森ノ宮と共謀している大神じゃないか。
 
「そうだ、ならこの歪な空間も森ノ宮の仕業か!」

 問い詰めるように連中を睨み付ければ、急にどろりとした濁った眼で俺ににやりと笑いかけた。

「那智さんのモノにならない会長いらない。那智さんの言うこと聞かないクロ丸、殺す。那智さんの役に立たない宗像ゴミ。那智さんの那智さんのなちさんのなちさんのために」

 壊れた機械のようにブツブツと繰り返す連中に、怒り以上に寒気を覚える。
 どうやら俺達は思った以上にとんでもない奴を相手にしているらしい。
 だが怯んではいられない。
 口から森ノ宮の命令を紡ぎながら、その手はひたすら海里を殴り続けているのだから。
 限度を知らぬ暴行に、本気で森ノ宮は海里を殺すつもりなのだと悟った。
 許せない。
 
「会長さーん。今度は俺達がキモチヨクしてあげるねえ。那智さんが淫乱な性奴隷になった会長が欲しいって言ってるからさー」

 周囲から無遠慮に伸ばされた手が、俺の制服のボタンにかかる。
 ぶちぶちと嫌な音を立てながら外されていくカッターシャツに、貴船の蔑むような冷たい眼が頭を過ぎった。

「うわっ、肌しっろー! でもってキスマーク発見!」
「やっぱ委員長にヤられてたんだぁ。
安心しな、俺達が委員長よりもよくしてやるからよお」
「まあこんだけ痕つけてりゃ、男同士で嫌ってわけないだろうし。
おら、何とか言えよ。この、ド淫乱が」

『へえ、俺にヤられて感じるたあ才能あるんじゃねえか。
ああそうか。やっぱお前、元からド淫乱だったのか』

 嘲笑混じりに蔑む貴船の言葉と眼の前の男の言葉が重なる。
 ぎりっと噛みしめる奥歯から血の味がした。
 怒りから来る震えと激情を抑えようと俯こうとするも、無理やり顎を掴まれ横に向けられる。
 謀らずも視線の先には眼から生気を失いかけ、額から血を流す海里の姿が――。

 伸ばされる黒い手。
 眼前に浮かぶはあの日の悪夢。長い階段とその一番上に立つ金髪の少女と見紛う少年だ。
 逆行で少年の顔はよく見えないが、その口元だけは三日月のように弧を描いている。

『間違いは正さなければなぁ。
凡庸な存在でしかないお前が桜姫様の隣に立つこと自体おこがましい。消えろ』

 少年の手は迷うことなく、歪な悪意を持って黒髪の少年を突き飛ばした。
 明らかに生き物の落下音とわかる鈍い音と共に、俺の眼の前に振ってきたものは。

『あ、あぁぁ、あ・・・・・・きら』

 頭から赤い雫を垂れ流し、廊下に赤錆色の血溜りを築いていく少年。

「また、失えと?」

 過去の惨劇が今と重なり、全身の血液が沸騰する。
 握り締めた手はあの頃と異なり大きくなり、形も固いものを殴打しなれたことでだいぶ骨がつぶれていた。
 弱弱しい女みたいな奴だった俺はもういない。
 だというのに、この体(てい)たらくは何だ?
 貴船にいいように弄ばれ、挙句の果てには森ノ宮の術中に嵌るとは。

「これでも生徒会長かよ俺は」

 自嘲の意を込め吐き捨てる。
 再度、向ける視線の先には大切な友の姿。
 結局俺は、己が超能力者であることを知られたくないがばかりに大切な人間を犠牲にしている。
 彼らはただの人間であるにも関わらず俺を守ってくれた。弱い俺の心を。
 ならば、今度は俺が彼らを守る番だ。
 例え人から後ろ指を指されようと、森ノ宮に俺の正体がばれようと構いやしない。
 きっと強い決意を込めて不良どもを睨みつけると、勢いよく俺はその手を振り払った。
 そのまま右手の人差し指を天に向ける。

「少し、頭冷やしやがれクソどもが!!」

 ありったけの怒りを込めて叫ぶと同時に、天井を突き抜けて降りてきた雷が人差し指目掛けて直撃した。
 帯電した指先からは押さえきれぬ雷光が不気味に光る。
 唖然とした顔でしばし動きを止めていたものの、我に返った不良達は恐怖に取り付かれ慌てだした。

「なっなんで雷が当たったのに死んでねえんだよ!」
「それにあの指から稲光が走ってんだけどっ。
もう何でもいいからあいつ殺せよぉ!!」

 精神が森ノ宮の支配下にあるとはいえ、恐慌状態に陥った奴らは次々に机や椅子などを俺目掛けて投げつけてきた。
 
「無駄な抵抗を。何もしなければ無傷で済ませてやったというのに」

 3割本気7割嘘だがな。
 密かに胸中で笑いながら、俺は天を指していた指を奴ら目掛けて振り下ろした。

「サンダーブレーク!! なんてな」

 
 

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