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猫の守護神さま!
疑惑
「まあ待てよ、委員長。要はあいつらに他にも証人がいることを示せばいいんだろ?
だったら打ってつけの人間がいるぜ、ここに」

 己自身に親指を向けながら、大神は反論してきた生徒に視線を向けた。思いっきり睨みつけられても、どこ吹く風とばかりに それを受け流す。
 思いもしなかった証人に驚くも、次の瞬間には何か企むように貴船が口角を上げた。

「ほう? じゃあ何を見たのか言ってみろ」

 酷薄そうな笑みを浮かべ、大神が口を開く。

「クロ丸が瞬間移動を行ったのを昨日見たんだよ、眼の前でな。
何だったら書記と報道部部長と風紀副委員長、あと庶務の片割れにも聞いてみろよ。
そいつらも奴の瞬間移動を目撃しているぞ」

 極めつけに俺へと嘲るように口元をつり上げた傍若無人ぶりに思わず顔を顰める。
 余計なひと言言いやがって。お陰で俺とクロ丸仮面同一人物説がまたもや復活してしまうではないか。
 本当に余計なことしか言わない男だ。
 こいつの目論見通り、やはり会長とクロ丸仮面は同一人物ではないかという声が上がり始める。
 その中には先程否定してくれたはずの知的少年もいた。困惑に満ちた眼で俺をじっと見つめてくる。

「クロ丸……もしかして、本当は変装じゃなくて会長本人なのか?
超能力者だなんて馬鹿馬鹿しいと思ってたけれど、あの白山や書記と風紀副委員長まで見てるのなら信ぴょう性はある。
それにその性格だって俺様な会長が演技してるとは考えづらいし。だとしたら普段の俺様な態度こそが演技だという結論しか浮かばないのだが……」
「待って、まだ君は直接白山君達に事実確認した訳じゃないだろ?
大神君の話を真に受けるのはまだ早いよ!」

 慌てて余計な詮索から手を引かせようとするも、彼の眼を見て引く様子がないのは明らかだった。

「確かにクロ丸の言う通りではある。だがここまで大神が自信をもって言ってるんだ。
嘘だと一蹴することは俺にはできない。もちろん、事の真偽を確かめるためにも彼らにちゃんと聞くさ。
それで彼らが大神と同じことを言ったならばそのときは……クロ丸仮面イコール会長と俺は見なす」

 真っすぐな揺るぎ無い態度で言い切られ、内心とても動揺する。その抜きみの刃の如く鋭い彼の利発さが、今の俺にはとても怖くてたまらない。
 心の動揺を隠すように俺は努めて声を低めた。

「見なしたとしてどうするの。それで君達は僕に対して何をしようと言うのかな?」
「……そ、それは、わからない」

 まさかこんな問いかけが来るとは思わなかったのだろう。今度は彼が眉をハの字に変えて、困ったような眼で友人達の方を見る。
 何か答えを返すことを期待されているにも関わらず、彼の友人達もどう答えたらいいかわからないようだ。
 思わぬ形で巻き起こった疑惑に、俺の異能をばらした貴船達でさえ眼を見張って驚いていた。
 呆然と石清水が口を開く。

「会長が……クロ丸仮面? なっ、何を馬鹿な!
いくらなんでも冗談がすぎますよ。あの冷血俺様男に限って人助けなんてするわけないでしょう。
武、貴方もそう思うでしょう?」

 石清水の言葉に同意するように鹿島も眉を顰める。

「俺も副会長の言うとーりだと思うよお。
だぁって、あのいつも人を食ったような笑みを浮かべてる男が人助けだよ? ありえないってばあ!
まあでも、今のクロ丸仮面は大事な那智を傷つけた仇だからね……。
もしあのクソ会長と同一人物なら却って好都合だよ。
死にたくなるような眼に合わせる楽しみが二重になるからさぁー」

 無邪気な笑顔の裏で殺意を滲ませる姿に、周りの生徒達が怯え出す。

 殺気を隠そうともしない鹿島を、俺はありったけの怒りを込めて睨みつけた。奴と眼が合うと、何故かすぐさま視線を逸らされる。

「何で眼を逸らす? 正しいこと言ってると思ってるんでしょ。なら堂々と眼を合わせなよ」

 今まで耐えていたことも重なり、きつい言い方で問い詰めれば、勢いよく鹿島が睨み返してきた。

「ならそっちこそ、いい加減正体を明かしなよ。できないんだろーけど。
本当の自分を知られたくない臆病者のクロ丸仮面にはね」
「あれ? それって君自身のこと言ってるのかな。
実に愉快な自己分析なんだな」

 半ば生徒会長モードになりかけた心境のためか、条件反射で挑発してしまう。
 案の定、鹿島のこめかみに青筋が浮かびだした。


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あきゅろす。
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