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猫の守護神さま!

 ゼェゼェと荒い呼吸を繰り返し、やっと落ち着くと、僕はフェンスに向かい一歩足を踏み出す。
 そのまま迷うことなくフェンスに近づき、しっかりとフェンスの柵に手と足を引っかけた。少しずつよじ登って行き、ようやくフェンスの天辺にまで届こうとしたその時――

「おい、そこで何してやがんだ。
自殺志願なら余所でやれ。昼寝の邪魔だ」

 ……え? 何で、人が?
 余りに予想外の出来事に頭がパニック状態に陥る。
 どっ、どどどどうしよう!? 屋上なんて普段は誰も来やしないって聞いてたのに! しかも自殺しようとしたところを見られるなんて……。
 混乱したままの頭には何も入ってこなかったのだろう。あれやこれやと言い訳を考えているうちに、後ろから逞しい腕に絡め取られてしまっていた。
 しまった、これじゃ逃げることすらできやしない!
 そのまま前だっこされた状態でフェンスから離され、屋上の扉の付近にまで来た時、ようやく地面に下ろされた。
 僕をフェンスから引き剥がした男子生徒は、じろりと冷たい目でこちらを見下ろしてくる。
 一体何を言われるのだろう。いや、そんなことわかりきっている。人の憩いの場を自殺現場にして穢すなってことか。
 そうだ、僕みたいな奴に死なれたら迷惑だよね。
 ほんと、死ぬ時も僕は人様に迷惑を掛けてばかりだ。

「――い。おいっ! さっきから人のこと無視してんじゃねえぞ! テメエ、何トチ狂ったことやらかそうとしてたんだ。人の仕事増やそうとしてんじゃねえよ!!」
「……え、しご、と?」
「そうだと何度も言ってんだろうが。しばらく暴れたと思ったら、今度は急にボオーッとしやがって」
「あうぅっ、ごめんなさい」

 余りの情けなさに、自然と顔が下へ向いてしまう。
 だけど仕事で来たとか言うその生徒に、無理やり顎を掴まれ上に向けられてしまった。その時、初めて僕はまともに相手の顔を見た。

「銀髪、と金色の目?」
「あぁ? んだよ、テメエもこれ見て気持ち悪りぃって言う口かよ」

 さらに不機嫌になった彼に、慌てて首を横に振る。

「違います! ただ、珍しくて……こんな綺麗な色、見たことなかったから」
「は……? きれ、い?」

 もしかしたら、そう言われたことが無かったのかもしれない。鳩が豆鉄砲をくらったような目で、その男子はポカンと固まっていたのだから。
 よく見るとその生徒の顔はとても整っていた。
 男らしい逞しさを感じる容姿で、共学だったら女の子にモテていたと思う。ここでも可愛い系の子達には受けるだろうけど。

「……お前、外部生か?」

 未だ呆けてはいたものの、すぐに持ち直したのか彼は探るように僕に尋ねてきた。

「は、はい。確かに僕は今年から中等部に入ってきましたが」
「そうか、道理でボヤっとしてると思ったぜ。……人の目を見て、変なことも言うしな」
「別に僕はぼんやりしてる訳ではないと思いますけど? それに変って」

 自殺を止めようとしてくれたから、それなりに良い人かと思ってたら、なかなか失礼なことを言うではないか。こっちは素直に綺麗だと思っただけなのに。 

「悪かった、そういう意味じゃなくてな。
……ああ、だから親衛隊とか学園のことを知らなすぎて面倒事巻き起こしたってわけか」

 親衛隊の言葉に、先程までの戸惑いが嘘のように頭が急速に冷えていく。
 親衛隊――晃に凄惨な制裁を加えるに飽き足らず、彼を階段から突き落とし、死期を早めた元凶。
 学園中に事件の事が広まっているにも関わらず、相変わらず懲りもせずに制裁を繰り返して。

 知らず目つきが剣呑なものになっていたようだ。銀髪の子が逆に冷えた口調で淡々と語ってきた。

「確かに外部生であるお前は今回のことでは被害者だろう。だがな、この学園で過ごすことを決めたからには、そういう理不尽に慣れるっきゃねえんだよ。
まあ、知らなかったじゃ済まされないことだがな」

 特に、オトモダチの件はな。

 全身を雷に撃たれたような衝撃が走った。そうだ、そんなこと見ず知らずのこの少年に言われなくともわかっている。
 いや、その前に何でこの子が僕と晃の身に起こったことを知ってるんだ!?
 僕のことは兎も角、晃のことは親衛隊の保護者の圧力で握りつぶされてしまったはず。
 なのに、一般生徒の彼がどうして真相を……。


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