猫の守護神さま!
3
この転校生に関する見解が一致したことはいい。
問題は誰がこの生徒を案内するかということだった。
俺がそれを口にすると、案の定、全員が渋い顔をした。
「私は嫌ですよ、こんなTPOを弁えた格好もできない人間と一緒に過ごすなんて……」
「俺もぉー! 可愛い子ちゃんならともかく、こんな黒もじゃ頭とランデブーなんて発狂しそー」
石清水の言葉を皮切りに、鹿島も立った鳥肌を擦りながら思いっきり首を横に振りまくっている。
「僕と夏輝も拒否! 生理的に無理!!」
「それこそ僕達育ちがいいし……。こんな時こそ、会長の出番じゃない?」
子犬のようにキャンキャン吠えながら、挙句の果てには俺に上手いこと押し付けようとするとは。
リアル悪魔な双子どもめ!
でも確かに俺は生徒の代表なのだから、押し付けられた仕事とはいえ、やっぱり俺が行くべきだよね。
「わかった……俺が行く。その代わり、俺がいない間にさっさと仕事を終わらせておけよ?」
ちょっと意地悪く笑うと、須佐を覗くメンバー達の顔が一斉に引きつった。
「ちょっちょっと! 何で僕達が……」
「会長命令だ。さっさと仕事に取りかかれ。
須佐を見てみろ、さっきから無駄口しか叩かないお前らと違い、真面目に書類と向き合ってるぞ」
それとパソコン画面がさっきから真っ白なままだが、いつになったら校内通信を書き終えるんだ?
何か反論する隙を与えずに畳みかければ、ぐうの音も出ずに黙り込む。
間接的に注意した石清水と鹿島も、伏見達と違い自覚はあったのか、俺を無視してさっさと自分の席へ戻っていった。
「じゃあ、須佐、後は頼んだぞ」
「ああ……、ちゃんと見張ってるから」
俺の意図をきちんと汲み取り、番犬の如く他のメンバーに鋭い視線を向ける須佐を、副会長が不機嫌そうに睨みつける。
「失礼ですね、貴方達は。わざわざ見張らずとも、このぐらいの仕事、さっさと片付けて見せますとも。
それより貴方こそ、須佐に頼む暇があるのなら早く転入生を案内しに行ったらどうですか?」
「ほう。そうかそうか、それは頼もしいな。
ならばこれで心おきなく迎えに行けそうだ。
すぐ戻ってくるから、それまでいい子で待ってろよ?」
だっ誰がと言う副会長の怒鳴り声を背中に受けながら、俺はさっさと生徒会室の扉を開けた。
扉が閉まる直前、強い視線を感じたので首だけ後ろに向けると、何故か須佐が不安げな顔で俺を見ていた。
「どうした、須佐? 何か言い忘れたことでもあるのか?」
昨年からの付き合いとはいえ、彼の浮かべる些細な表情の変化ぐらいは読み取れる。
まさか俺に気付かれてるとは思わなかったのだろう。
須佐は驚いたように目を丸くしていた。
「会長……なんで、わかった?」
「しょっちゅう顔突き合わしてれば、嫌でもわかるようになるだろ。そんなもんだ」
「そっか、会長はそうなんだ」
何故か嬉しそうな顔をするので、彼の笑顔の理由がわからないながらも俺もつられて嬉しくなる。
「あのさ、会長? 転校生には、気を付けて」
「ん? あ、ああ、わかった」
急に真顔に戻った須佐に、俺はよくわからないながらも取りあえず頷いておいた。
そうしておかないと須佐がますます心配するような気がしたからだ。
案の定、須佐は少し安心したような笑顔を見せてくれた。
これで大丈夫だろうと、俺は今度こそ振り返らずに、静かに生徒会室を後にした。
まさか誰が思うだろう。
この時点で俺の、俺達の学園生活が一変してしまうことになるなんて。
あのとき、無理やりにでも理事長の指示を突っぱねるべきだったのだ。
このとき、須佐の忠告の意味を彼に聞き返せばよかったのだ。
そうでなければ、少しはこの学園の混乱に先手を打つことができたかもしれないのに。
何故、気付くことができなかったんだ。
……一か月前の前の俺は――。
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