[携帯モード] [URL送信]
白雪姫おまけ2


 舞台裏A


「……ちょっとお」

 納得いかない、と苛立っているのは、小人のフードをべしっと床に叩き付けたサラだった。

 彼女が凝視している相手は、そ知らぬ顔をしている。

「あんなシーンは台本に無かったわよ!」

「……そうだったか?」

「白々しいわね!」

 サラは勢いあまって相手の胸倉を掴み上げると、酷い形相で怒鳴った。

「いくらなんでもキ、キスシーンなんてありえない!」

「何故君が怒るんだ。関係ないだろう」

「あるわよ、おおいに!」

 サラは鼻息を荒くして顔を近づけると、今までで一番目を鋭くさせて呟いた。

「今度コウにあんな真似してみなさい。その薄毛を全部ひっこぬいて目ん玉抉り出してやるんだからね」

 言いたい事を言い終わると、サラはすっきりといったふうに軽やかなステップで走り去った。

「顔に似合わず……恐ろしいことを言うな」

 サラの勢いにのまれてしまったリセイは、顎に手を当てて思案した。きっとサラ=レイドルートとは一生、犬猿の仲になるだろうと。

「しかし、キスくらいでこう騒がれてはな」

 独り言を呟いた彼に、もう一人の小人役の男が言った。

「あはは。怒られちゃったねー。でもさあ、さすがに私もびっくりしたよ。あんな、皆のいる目の前で堂々とできる奴ってなかなかいないと思うし。それに君は結構堅実なやつだと思ってたから、ちょっと意外だったよ」

「そうだな……もし、本当に死に至る物が彼女の喉に詰まっていたとして、それを取り出すにはあの方法しかなかったなら……俺は迷わずそうすると思っただけだ」

「……ふうん。なるほどね」

 そう答えると、彼は小人のフードを指でくるくる回しながら笑った。

「そういえばさあ、コウちゃんが死んだふりしてたとき、サラお嬢さんは本気で泣いてたねえ」

 からからと笑いながら、彼は何処かへ歩いて行った。

 その背を見つめながらリセイは言葉を吐き出す。

「お前だって涙目だったくせに」

 リセイは目を反らし、こんなものを何時までも着ていられるかと、王子様の服を脱ぎ捨てた。



 舞台裏A 終

←前次→


19/21ページ

[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!