白雪姫おまけ2
舞台裏A
「……ちょっとお」
納得いかない、と苛立っているのは、小人のフードをべしっと床に叩き付けたサラだった。
彼女が凝視している相手は、そ知らぬ顔をしている。
「あんなシーンは台本に無かったわよ!」
「……そうだったか?」
「白々しいわね!」
サラは勢いあまって相手の胸倉を掴み上げると、酷い形相で怒鳴った。
「いくらなんでもキ、キスシーンなんてありえない!」
「何故君が怒るんだ。関係ないだろう」
「あるわよ、おおいに!」
サラは鼻息を荒くして顔を近づけると、今までで一番目を鋭くさせて呟いた。
「今度コウにあんな真似してみなさい。その薄毛を全部ひっこぬいて目ん玉抉り出してやるんだからね」
言いたい事を言い終わると、サラはすっきりといったふうに軽やかなステップで走り去った。
「顔に似合わず……恐ろしいことを言うな」
サラの勢いにのまれてしまったリセイは、顎に手を当てて思案した。きっとサラ=レイドルートとは一生、犬猿の仲になるだろうと。
「しかし、キスくらいでこう騒がれてはな」
独り言を呟いた彼に、もう一人の小人役の男が言った。
「あはは。怒られちゃったねー。でもさあ、さすがに私もびっくりしたよ。あんな、皆のいる目の前で堂々とできる奴ってなかなかいないと思うし。それに君は結構堅実なやつだと思ってたから、ちょっと意外だったよ」
「そうだな……もし、本当に死に至る物が彼女の喉に詰まっていたとして、それを取り出すにはあの方法しかなかったなら……俺は迷わずそうすると思っただけだ」
「……ふうん。なるほどね」
そう答えると、彼は小人のフードを指でくるくる回しながら笑った。
「そういえばさあ、コウちゃんが死んだふりしてたとき、サラお嬢さんは本気で泣いてたねえ」
からからと笑いながら、彼は何処かへ歩いて行った。
その背を見つめながらリセイは言葉を吐き出す。
「お前だって涙目だったくせに」
リセイは目を反らし、こんなものを何時までも着ていられるかと、王子様の服を脱ぎ捨てた。
舞台裏A 終
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