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白雪姫16


 目覚めた姫


 落ちた衝撃で棺の中のコウ姫は壁に頭をぶつけてしまいました。ゴツリ、と結構な音がしたので、心配になった王子は棺を開けてコウ姫を抱き起こしました。

「……うん、傷はついていないようだな」

 王子は姫の頭を愛しそうに撫でました。やわらかい亜麻色の髪が気に入ったようです。

「……う」

 なんと、死んだとばかり思っていたコウ姫が、小さな呻き声をあげました。小人たちはみんな息を呑んで覗き込みます。

「……あれ、起きないぞ?」

「おかしいな。普通はここで目覚めるんだけど」

 小人たちが動揺するなか、王子は「そうか」と呟きました。

「まだのどに引っかかっているのか」

「ちょっと、わたしたち結構揺らしたわよ?」

「ああ、だが衝撃が足りなかったようだ」

 どうするのよ、と王子を責める小人を放置して、王子はコウ姫を抱き寄せました。そして、また優しく頭を撫で、指で髪をくるんくるんと遊ばせ、血のように赤い頬を触り、また真っ赤な唇に手を添えました。

 小人たちが騒ぐ間もなく、王子とコウ姫の距離はなくなってしまいました。真っ赤な唇がすっかり隠れています。

 そのまましばらく、王子は何かを思案しながら姫の中を動くと、やっと取れた、と言ってコウ姫から離れました。

 王子の舌には、真っ赤なりんごのかけらが付いていました。

「結構浅いところでひっかかってくれていて助かった。これでもう大丈夫だろう」

 小人たちは何に突っ込めばいいか分かりません。とりあえずこれでコウ姫が目覚めてくれればと、みんなが一心に祈りました。


「……う、うーん」


 コウ姫は目を開けて、気だるそうに起き上がると、大きく屈伸をしました。

「ふあーあ。あれ? 私ったら……今まで何をやってたのかしら」

 コウ姫は自分が何処にいるのかも分かりません。不安な顔で辺りを見回すと、すぐそばに知らない男の人がいました。

「あなたは誰なの? 私は……ここはどこなのかしら」

「君は私の傍にいるんだ、コウ姫」

 そうして王子はコウ姫を抱きしめました。

「ちょ、ちょっと」

「やはり見事な琥珀の瞳だ、美しい」

 王子はさんざんコウ姫を絶賛しました。それはもう、小人たちが思わず赤面してしまうほどでした。

 恥ずかしさで、赤い頬をよりいっそう赤くさせて、コウ姫はうつむきました。そんな姫を軽々と抱き上げて、王子はこう言いました。

「私のところにおいで。決して不自由はさせないから」

 王子は返事を聞こうともせず、無理やり姫を城に連れて帰ってしまいました。


 それから間もなくして、王子とコウ姫は結婚しました。二人はいつまでも幸せに暮らしましたとさ。


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