白雪姫11
王妃の企み
「きったないことろね……まあいいわ」
王妃は何度かせきを払うと、戸をたたいて言いました。
「いい品がありますよ! とっても安くてお得ですよ!」
こんな訪問販売で客がつかまるはずもなく、家の中からは何の返事もありませんでした。
「えー、ゴホン! お安い品物揃ってますよー!」
「……なにやってるの? おばあさん」
後ろから聞こえたので、王妃はひっくり返りました。
「……大丈夫?」
「だ、大丈夫だよ。それより何で家の外に……」
「だって留守番とか退屈だもの。こんなに天気がいいのに」
まるで無防備なコウ姫に、王妃はしめしめと思いました。
そして売り物だった、とてもきれいな紐を差し出しながら「これはどうですか?」と言うと、コウ姫は口を曲げて「別に」と答えました。
コウ姫は身に着けるものに執着心がなかったのです。
このままではいけないと、王妃は慌てて紐をコウ姫の首に巻きつけました。きつく縛って窒息させようとしたのです。
けれどコウ姫は素早く身を翻して紐を外しました。
「っげほ! なにをするんですか、おばあさん」
王妃は困り果てました。
これは失敗したと思い、逃げるようにして城に帰ったのです。
「何だったのかしら……」
鈍いコウ姫は王妃の企みに気づくことなく、家事をしなければと足早に家の中へ入りました。
その夜、コウは男勝りな小人にこっぴどく叱られました。
「なにをかんがえているんだ、ばかもの! その女は紛れもなく、お前の命を狙っていたお妃だろう!? もっと警戒心をもて!」
「あっそうか」
いまさらに納得したコウに、小人たちはがくりと肩を落としました。
+++++
城に帰った王妃はまっ先に鏡のところへ行きました。
「鏡よ鏡! 出てきなさい!」
『……はあ、ですからあなたがいちばんきれー』
「いい加減なこと言わないでくれる!? 貴方にお願いがあるのよ。あの子を殺すにはどうしたらいいか教えてちょうだい!」
『コウ姫を殺す方法? そんなものは自分で考えてください』
「どうしてもうまくいかないのよ!」
『なら、強引に連れ出して殺せばいいでしょう』
「それが……予想以上に強くて」
鏡も、強くて美しいコウ姫を殺すのはいらでした。ですがこのままでは王妃が何をやらかすものか知れないので、適当にごまかしました。
『じゃあ、忘れ物を届けに来たと言えば相手も油断するでしょう。彼女は親切に弱いでしょうから』
それを聞いて、王妃は手をたたいて喜びました。今度こそ上手くいくと思ったのです。
――本当は、不意をつこうがどうしようが、王妃が勝てないことを鏡は知っていました。しかし聞かれていないことに答える義理もないので、黙っていました。
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