白雪姫05
紅の猟師
このままでは心休まる日々が送れないと、そう考えたナティア王妃は、あるとき、猟師を呼びました。
「もうコウ姫の顔も見たくないの。あの子を森の中に連れて行ってちょうだい。そして森の奥で殺して、証拠に肺と肝臓を持ってきなさい」
「なんということを……一国の王妃の考えることではないな。既に度量でコウ姫に負けているぞ」
「だっ、黙りなさい! 言うことをきくのよ!」
猟師はしぶしぶといった感じでしたが、王妃の命令どおり白雪姫を森に誘い出しました。
「お前に恨みは無いがこれも仕事でね。死んでもらう」
そうして猟刀をぬいた猟師に、コウ姫は小さく悲鳴をあげました。
手足が震えて、心臓は激しく脈打ち、酸欠で倒れてしまいそうでした。
けれど自分が逆境にすこぶる強いということを、コウ姫自身も気づいていませんでした。
「そんなこと言われて、はいそうですかって言うとでも思ってるの!? バッカにしないでよ。あんたなんか、この木の棒で十分よ!」
荒ぶる姫の姿を見て、猟師は驚きのあまり刀を落としました。その隙を見逃さなかった白雪姫は素早く刀を取り、猟師の首に突きつけたのです。
「これは……すごい」
「ありがとう」
猟師の言葉がとても素直だったので、コウ姫は気をよくして刀を下ろしました。
「はい、刀返す。今度からは私を殺そうとなんてしないでね」
「それは構わないが……いや、しかしな。またこうして別の者がお前を狙ってやってくるぞ」
「ああ、それは面倒だこと。いっそ家出しちゃおうかしら」
そうして森の奥へと歩いてゆくコウ姫を、猟師は止めませんでした。
「気の毒な姫だな。自分の母親に命を狙われるなんて」
仕事は大失敗に終わりましたが、猟師の心は何故かとても晴れていました。
きっと、あの姫の輝きを失わずに済んだことが嬉しかったのでしょう。
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