もしもカルロが人間だったら3
「カルロ先生、こんにちは」
ティレニア機関4号館の中庭。今は昼食時。一人木陰で転寝をしていたカルロ先生の元に、一人の少女がやって来た。
『また……貴方ですか』
「あ、あからさまに嫌そうな顔しないで下さい、感じ悪いですよ」
『他人にどう思われても関係ありませんね』
「わー暗い」
嫌味と捉えられてもおかしくない言葉だが、彼女が言うと何故か苛立ちを感じなかった。それはカルロにとって、初めての経験。
『貴方は確か……』
「戦士科のコウ」
『ああ、落ちこぼれの』
「うわぁ……身も蓋も無い。けど、まぁ間違ってはないかな」
コウはへらっと笑った。それがカルロには不思議でならい。この機関に居る以上、”成績”というものは最も重要な要素だ。それをこうも適当に考えている生徒が他にいるだろうか。
「カルロ先生何読んでるの?」
『言っても分からないでしょう』
「そりゃそうだけど、それじゃ会話にならないよ」
『貴方と会話する気はありません』
「貴方じゃなくてコウ」
『…………』
カルロがこう言えば、大抵の人間は不機嫌になって去っていく。なのにコウは少しも気を害していない。それどころか、初めよりも執拗になっている。
『私と話していて楽しいですか?』
「え? うん」
即答だった。それはさすがに納得いかない。
『何が面白いのか……本当に変わっている人ですね』
「あはは、よく言われるよ」
困ったように眉を下げながら、コウは笑顔を振りまく。それは今なら自分だけのものに出来るか……? そう考えるだけなら、誰にも咎められはしないだろうか。
「カルロ先生って何歳?」
『さぁ、数えていませんね』
「いやっ、数えなよ!」
『面倒です』
「何それ面倒くさがりすぎ! 一年に一回の更新でいいんだよ!?」
コウの勢いの良いつっこみが、今となってはカルロの中に心地よく響いていた。
不思議と、コウと同じ速さで呼吸をするようになり、それが当たり前の事の様に思えた。
「ねぇ、先生。明日は一緒にお昼ご飯食べよう」
『……は?』
「ね?」
『……』
逆らえる、わけがない。
何年も心を閉ざしていたカルロを呼び覚ましたのは、お日様の心地を覚える温かな一人の少女。そんなコウは誰よりも綺麗で、輝いて見えた。
カルロは、このままずっとコウの強い瞳に囚われていたい。そう思った。
こんな風に自分で何かを願ったのは、初めてかもしれない。
きっとそれは、いつも幸せそうに笑っている君だから。
[完]07.11.29
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