薔薇の心 後編
あと一週間。待ちに待った本試験だ。これで成功すれば、やっと軍人になれる。……そういえばあの子は、コウは何で軍人になりたいのかしら。
私が言うのも何だけど、コウに軍人は似合わないわ。それは自分でも分かってるはず……
コウ、初試験の時だってぐずぐずしてさ。いつも皆から遅れてた。しかもここ何日か部屋を留守にしてるみたいだし。
そもそも……
今回の本試験の事知ってるの……?(嫌な予感)
―予感は見事的中―
「はぁっ!? 知らない!?」
「うん」
「(うんって……この子……)」
何で平然としてるのよ……。考えられない。ついてけない。――でも、ここで見捨てたらこの子落ちちゃう! 私がしっかりしないと!
案の定コウは何も知らなくて、聞いても「へぇー」とか言っていた。コウの余裕はどこから出てくるのだろうか……。
いつも不思議なの。周りがセコい手使っても相手を邪魔しようとか考えてる時でも、動揺せず、我を見失わず……
「お兄様みたい……」
「……え?」
つい思い浮かんだ人物の名前を言ってしまった。どうしてなのかしら……ヘルト兄様は強くて優しくてしっかりしてて、コウとは正反対なのに……。
貴方とお兄様が重なるなんて……
「何でもないわよ! 本試験頑張りなさいよ!」
「うん! ありがとう、サラ」
ほら、また。どうしてそんなに素直に言えるの? コウは人を憎んだり裏切られたことがないのね……きっと……。
〜 本試験 〜
「ここまでか……」
チームの司祭の力不足。それは私のミス……けど、こんな時に一々仲間の面倒なんか見きれないわよ。遊び半分でやってるから、こういう時行き詰まるのよね。
「棄権します」
― 棄権 ―
それは、敗北。私の人生に今までなかった言葉。これからも無いはずだった。私は勝ためなら何だってしてきた。味方を犠牲にしても……。なのに……
言えた……言えたの、私。いつの間にか自分のプライドを守る為だけに"勝利"という事にこだわっていた、私に……それよりも、仲間の事を、命を大事にする気持が生まれた。
それはきっと、貴方のおかげ……。
「あせる必要なんか無いよ」って、いつもゆっくりとした早さで進むコウに触れられたから。あなたのおかげなの。
私、あなたと一緒にいたい。私も変わるから、大切なものをなくさないように……必死で守って生きていくから。
――だから、
傍にいたい。
傍にいさせて……
これからも、ずっと、ずっと……
薔薇の心 [完]
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