アモンと休日
ある休日のこと。
特にすることもなく、コウはぶらぶらとティレニア機関内を歩き回っていた。端から見れば、夜中に徘徊するご老人のようだろう。だが、他人の目は気にしない気にしない。私は心の向くままに足を進めた。
気付くと、神官専用の2号館まで来ていた。中央ホールへ続く長い廊下を進んでいると、進行方向から金髪の青年がもの凄い速さで走ってきた。
思わず避けようかとも思ったが、彼は真っ直ぐ私に向かってきた。ああ、逃げられないのね。
「あれ、コウちゃん!? こんなところで何してるの!?」
「いえちょっと、散歩を」
「じゃあ暇なんだね! だったら協力してっ」
嫌です、と言いたかった、心から。でも、言えなかった……。
何故だろうか? 今みたいに慌てふためいてるアモン教皇を見るのが珍しいから? いや、違う。私自身がこの展開に飽きてきた証拠だ。少々面倒だが、さほど気にかける必要はないだろうことは目に見えている。
私は嫌がりながらも、仕方なく自室に連れて行った。
「また公務に追われてるんですか? いいかげん真面目になったほうがいいと思いますよ」
「あはははは」
アモンさんは笑ってばかりで、ちっとも反省していない。そんな風にあんたがさぼるから、クリスさんの仕事が増えるんだぞ!? 判ってんのかこのぼんくら――!
と、心中で罵ってみた。
――本当は、わかってる。何故アモンさんがこんなふうに逃げているのか。その理由が判っているからこそ、逆に腹が立つのかもれない。
だって、彼が逃げてるのは……
「アモンさん、考えが幼稚すぎですよ」
「え!? ……あはは、コウちゃんにはばれちゃったかな」
アモンさんは苦笑した。どうせものの数分で居場所はばれる。それが判っていて逃げ出すのは、加えて毎回毎回同じ場所に隠れるのは、他でもない……
かまってもらいたい、だけ。
バタンッッ――!!
自室の扉が勢いよく開いた。毎回そんなに強く開け放たれてたら、いつかドアが壊れそうだ。いっそ壊れてくれれば、私がどれだけ迷惑被ってるか知らせれるのに……。
「アモン教皇〜……いい加減にしろよ!? いっつもいっつも手間かけさせてっ」
「あー、クリスちゃんのお迎えが来た」
「迎えに行きたくて行ってるんじゃない! 人様に迷惑ばかりかけて……!」
クリスさんは、私の方をきちんと向き直り、丁寧に頭を下げた。これも毎度の事。
「コウ様、申し訳ない……このあほうが迷惑をかけたようで……」
「いいんですよ。クリスさんの方こそ大変そうですね」
私の言葉に「全くだ」と強く頷いた彼女は、アモンの襟ぐりを掴み、私の部屋から引きずり出した。そして、扉の前で再び頭を下げ、彼女達は行ってしまった。もちろん、廊下の向こうから怒鳴り声が聞こえてくるのは言うまでもないが……。
「好きな人にかまってもらいたいなんて……いくつなのよアモンさんは……」
一人になった部屋で、そう呟く私。だけど、彼の気持ちは少しわかる気がする。
一番大切な人とか、誰より愛してる人とか、そういう難しい事は分からない。でも、今一番誰に会いたいか、は……わかるよ。
アモンさんは人使い荒いし何事も器用にソツなくこなすし……優れた人なんだけど、恋愛だけはド不器用だな。
――と言ってる私も、気持ちを表すのが相当下手なのかもしれないが。
[完]07.10.14
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