ルーンと休日
ある休日のこと。
今日は生憎の雨で、外へは一歩も出れない状態だった。というか、ごうごうと唸る雨音に出る気も失せた。
カルロは話しかけても『そうですか』とか『……で?』という気のない返事ばかり。あまりに暇なのでサラの部屋にも行ってみたが、彼女は訓練ルームに篭っていた。
――ああ、暇だ。
そう喘いだとき、黄色のオモチャ……もとい、ルーンの姿が目に入った。
「ねえルーン、一緒に遊ぼうよ」
『あ……遊ぶ!? それは何事ですか!? もしや危険なことでは……』
「え――と、説明しづらいから体で覚えて」
『なっ!! ……いいでしょう……受けて立ちます!』
ルーンが何かを勘違いしていることは、勿論気付いていた。でも、本当に説明のしようがないし、遊ぶといってもお菓子とお茶を嗜むだけだ。そのうち彼女も気づくだろう。
私は一先ず宮殿へ行き、ダイスさんを探した。ダイスさんはいつも通りにこやかに出迎えてくれた。
「コウ様、お茶でしたらすぐにご用意いたします」
「あ、いえ、自分でします。暇だから、ルーンと一緒にゆっくり用意しようと思って」
その返答に、ダイスさんは納得いかない様子だったが、無理強いするのも失礼だろう。そう思い、彼は遠慮がちに自分の仕事に戻った。
「さ、ルーン、一緒にお茶入れようね」
『お茶……?』
「そうよ。アールグレイ? それともダージリン?」
そう聞くと、ルーンは顔をしかめた。聞いても分からないか、と私は思い直し、種類は適当に選んだ。
「砂糖は何杯にする?」
『砂糖とはなんですか?』
「甘いものよ。ルーンは甘いの嫌い?」
『いえ……味覚はよく分からないので』
元々人間の食べ物を好まないルーンは、味も殆ど知らなかった。精身体の時は勿論食べ物を口にすることは出来ないが、実体化しているときなら多少は味覚が働くらしい。ルーンは甘いものが好き、と勝手に決めつけ、おまけにミルクも入れてみた。
「ん〜いい匂い」
『……何か甘だるい感じですね』
「あれ、嗅覚は分かるの」
『はい、味覚以外なら人間以上です』
ルーンは誇らしげにそう言った。でも味音痴なんでしょ? と聞くと、言葉の意味は理解出来なかったものの、けなされている事は判ったようで、ルーンは『ちょっとだけです』と強く言い訳した。
「お菓子は何がいいかなあ……チョコレートとビスケットと――」
『こんなものを食べていたら、胃が悪くなりませんか?』
ルーンは少し青ざめながらそう呟いた。お菓子の山を抱える私は、「必須アイテムよ!」と笑顔で言ってやった。
天の間へ入り、中央の円形テーブルにお茶と菓子を乗せ、ルーンと向かい合わせに座った。ルーンは小鳥の姿なので、椅子には何枚も座布団を敷いておいた。
「では、いただきます」
私は茶を飲み、ふうっと息を吐く。甘いお菓子を頬張り、顔を綻ばせながら「幸せ〜」と言う。その反面、ルーンはまだ踏み切りつかないらしく、甘い匂いを漂わせるお茶とお菓子を睨んでいた。
「ルーン、食べてみてごらんよ。すごく美味しいから」
『……では……ひとつ……』
ルーンは半ば震える口ばしで、お菓子を突ついた。欠片を口に入れ、喉に通す――
『うっ!! あ、甘っ――!』
「どうしたの?」
『なんだこれは! 味なんか良く判らないぞ!? 甘すぎて気持ち悪くなってきた……』
「ルーンしっかり! あ、お茶飲んで……」
思わず勧めたが、お菓子よりも甘いお茶を飲んだルーンは……
『――――!!?』
声にならない声で叫び、毛を逆立てながら半泣きになった。
どうやらルーンは甘いのが苦手のようだ。……もう手遅れだが。
この日以来、ルーンは二度と甘いものは口にしなくなったという……。
[完]
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