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小姑の小言(7章) 

 7章32話頃、帝国クロス城。神軍の覇王リセイ君が真面目にお仕事中の、そんなある日。



「リセイ様、お話があります」

 ここはクロス城の上階にある執務室。部屋の前には数人の守衛と召使がいて、厳重に守られていると伺えるここで、いつもの様に険しく話を切り出す男がいた。彼は薄い金の髪を風に晒しながら颯爽と主人の元へ歩み寄る。対する主人は動揺も無く返事をした。

「グレイか、どうした」

「どうした、じゃありませんよ。何ですかこれは」

 そう吐き捨てながらグレイが差し出した、いや、放り投げたという表現の方が正しいが、とにかく執務机の上に並べられた書類の山を見て、リセイは少し不機嫌になる。

「これ以上仕事をさせるなら俺は死ぬ」

「そうではありません、これは請求書です」

「請求書?」

 金の事に無縁な彼だったが、少し考えるとその金の使い道を思い出せた。数日前まで一緒だった、精霊の恵みを受けた不思議な少女、コウ。彼女との旅ではこの空の心が満たされて、自分としては充実した日々だった……が、何処にいるかも分からない主人の身を案じていたグレイにとっては、散々な毎日だったそうな。

「公費で落とすんじゃないんだ、いいだろう」

「良いわけ無いでしょう。貴方の財布は誰が管理していると思っているんですか」

「私じゃないのか?」

「違います。……全く、二人分の旅費は馬鹿にならないんですよ? 宿費も食費も彼女の分まで全部出して……って、リセイ様これは何ですか?」

 グレイがとある請求書に書かれている品を見て呆れた声を出し、怪訝そうにリセイにも見せた。

 ― 高級絹布 ―

「それはセーレン・ハイルを隠すため仕方なくだ」

「そんなもん風呂敷で十分です。それが服一着買える程の値段て、どういう感覚してるんですか」

「女性に物を贈るのに妥協はしない。それが特別な相手なら尚更──」

「はいはい。で、これも何ですか?」

 ― レンタルボート ―

「それも仕方なくだ」

「海で何してたんですかね全く…………っはぁ!?」

 グレイは肩を震わせながら問題の請求書を奪い取った。何度見てもそこに書かれてある金額は……

「何ですか!? この研究材料費1億2万パルって!」

 何度数えても、単位は億。城の改装が出来るくらいのお値段に、グレイは卒倒してしまいそうだった。

「研究材料……? ああ、確か裏取引ではそう言うんだったな、精霊の事を」

「精霊!? ……そう言えば風神が捕らえられたと聞きましたが、何も肩代わりしなくても」

「仕方ないだろう。コウは文無しだ」

 深く溜息を吐くグレイ。しかしその時、怪しげな請求書に目が行き、彼の思考が一瞬止まる。どう切り出せば良いのか迷っていたが、グレイは一応戸惑いながらも尋ねてみた。

「リセイ様、最近愛人を作ったりなんかは……?」

 勿論リセイは少し怒った様に、

「するわけ無いだろう」

 予想通りの答え。だが確かにここに書かれている、謎の品。

「では、この”女代”とは何ですか?」

「コウだ」

「────」

 お堅いグレイの頭は瞬時に氷結。女を金で買うとすれば、やる事なんて一つしかない。が、そんな期待する展開にはならず、リセイは冗談だと笑って返した。

「事実金は払ったが、彼女を取り返すための手段として使ったにすぎない。勘違いするな」

「……そうですよね、びっくりしました」

 本気で勘違いしていたらしく、そんなに信用無いのかと若干落ち込むリセイ。それに、こうまで欲している者を金なんかで買えるなら──。

「金でどうにかなるのなら、安いものだ」

 切なそうに答える主人を見て、やはりグレイも顔を曇らせる……と思いきや、案外冷めていた。

「リセイ様、言っている事は儚げで綺麗ですが、事実払ったって事は少しは期待していたんでしょう? 残念ですね、何もなくて」

「……放っとけ」


 覇王の補佐官グレイ=カルディス、リセイのお世話は大変そうです。



 [完]


 (C)LICHT 2008-1-26



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