彼女の誘惑に耐えろ2
互いの距離が数センチの所まで迫った時、コウの眉がぐっと下がった。
「フレアンさん、顔がこわいー」
と、しかめっ面で言うコウは、フレアンの眉間をぐりぐりと押さえ、「シワよってるー」と指摘した。
「恐いじゃなくて……真剣だと言ってくれ」
「ぐりぐりーっ」
「もう、分かったから……」
全く緊張感の無いコウの姿に、がくりと項垂れる彼は、ほろりと涙が零れそうだった。
「カルローっ! ぎゅーっ!」
ぱっとフレアンから離れると、今度はカルロに向かって走り寄り、ぎゅうと抱き締めた。
悔しいような、助かったような……複雑なフレアンの側に、小鳥のルーンがやって来た。
『大丈夫か? 色々』
「俺に構わないでくれフェザールーン……どうせ廃れた男だ」
あそこまで大胆に誘われたにも関わらず、また手が出せなかったのは自分の不甲斐なさなのだと、自分を責めるフレアン。
ルーンは気の毒そうに彼の肩を叩いた。
その間もカルロを抱き締め続けるコウは、ふにふにしたカルロの体に上機嫌だった。
「カルロ柔らかーっ。ふかふかっ」
『……喜んでもらえて光栄ですよ』
自分が変な気を起こさない様に全神経を停止し、なすがままになるカルロ。動物姿ではフレアンの様に頬に触る事も唇に触れる事も出来ない。文字どおり、手も足もでない状態だった。
そんなカルロを見て、フレアンの心に同情心が生まれたとか、生まれなかったとか……。
++++++++++
一騒動終わると、コウからカルロを奪い取り、彼女を寝台に寝かせた。
暫くして……。
「……ふ……ぁぁ〜あ……いつの間にか寝ちゃってたぁ」
と、目が覚めたコウは、何事もなかったかの様に起き上がる。
「あっ! もうこんな時間! 早くしないと劇が始まっちゃうよっ」
慌てて支度をするコウは、依然ソファーで項垂れるフレアンとカルロに「二人とも早く!」と急かした。
……が、二人の男は先程の出来事で抑制するために力を使い果たしていた。
こうしてマイペースな彼女に振り回される日々が、この後暫く続くのであった……。
[完]
(C)りひと 2008/4/7
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