商人ユーリックの悲劇 前編 俺の名はユーリック=メトアーナ。名の知れた大商人だ。 そんな俺の唯一の弱点とも言えよう彼女が、加えて本人は悪気が無いつもりらしく、もうどうしていいか分からない。 「はい! じゃあ第一回ババ抜き大会初めマース!」 『負けませんよ、コウ嬢!』 「お、やる気ねぇルーン。私もそう簡単にはやられないわよ」 コウと小鳥は大はしゃぎ。それに比べて黒髪の青年は無表情。そして……五月蝿い小鳥と青年に挟まれてる、俺……。 え? 何故コウの隣に行かなかったのかって? そりゃあお前、そんな事恐ろしくて出来ねぇよ! この隣の兄ちゃんに魂抜かれそうだったんだぜ!? いくら俺でもこいつとまともにやり合おうとは思わない。 鬱なユーリックを放置して、コウはルーンの手前に置かれたカードを一枚抜き取る。……ああ、手、ないもんな。 「次、ユーリックのから引くんだよ」 コウが言うと、ルーンはぱっとユーリックの前に飛び上がった。 「ほら、引けよ」 『――――』 ルーンは無言でカードの背を睨んだ。 「ユーリック、取ってあげてよ」 「え? 俺が!? こいつが引くんだろ」 『右から二番目』 「って指示すんなぁ!」 取れ、と言わんばかりのルーンの態度に少々切れ気味のユーリックだった。が、コウもああ言ってる事だし、逆らう訳にはいかなかった。 「……ったく、ほら」 『うむ』 何故か自分より上の立場から物を言う小鳥に腹を立てながら、ユーリックは反対側を向く。 ――うわっ! 恐っ! 思わず声に出しそうだったが、寸での所で飲み込んだ。自分が引こうとしているカードの主は、明らかにこの場に不釣合いな青年、フレアンだった。 「と……取るぞ……」 「――」(無言) ―え? 取っていいんだよな? ……何かゲームなのに嫌な緊張感あるぜ。 ユーリックはフレアンの気迫に圧されながらもカードを抜き取る。そんなに無愛想だとコウに嫌われるぞ、などと思っていると……。 「ほら、コウの番」 「はーい。えと…どれにしようかな……」 「どれでも一緒だろう。まだ始まったばかりだからな」 「それもそうだね。じゃあ……これっ! ――あ、ペア出来たっ」 「そうか、よかったな(爽笑)」 ――あの、フレアン君。ちょっと態度違いすぎません? 前へ←次へ→ [戻る] |