商人ユーリックの落胆 俺はユーリック=メトアーナ。西海の商人としてちょっとは名の知れた男だ。とにかく珍しい物に目が無い。安く手に入れ高く売りさばく、なんて俺らにとってもはや常識。たまに裏世界にお邪魔したりもする。 そう、今をトキメク大商人のこの俺が、今一番興味を抱いているもの。それはひょんな事から航海を共にすることになった女、コウだ。 === 船長室 === 「――――え?」 部屋の入り口で、俺とコウは向き合っている。コウは嬉々とした表情を浮かべながら、もう一度言った。 「だから、ちょっと私の部屋に来てくれない?」 ああ、やはり聞き間違いではなかった。 分かってんのか? コウの奴……。只今の時刻は午後9時ジャスト。コウの髪が少し濡れているから、もう風呂には入ったんだろう。他の連中は疲れて部屋で休んでるし、今のは明らかに俺を誘っていた。 ……これって……これって……もしかして――――!? 「あ――ああ、別に……構わねーけど?」 なんて、ちょっと面倒そうに言ってみたり。 「本当!? ありがとうユーリック!」 「まぁコウなら全然――っておわっ!?」 「早く早くっ!」 「おっおいっ」 コウはユーリックの腕を掴み、ぐいぐいと引っ張っていく。 バカ、そんなに焦んなよ(照れ)。まさかコウがこんなに俺のこと欲……ゴホンゴホン! まだそうと決まった訳じゃねぇんだから、何変な想像してんだよ俺っ。 ――と、ユーリックは逸る心を必死に抑えながら、目の前をがんがん進んで行くコウを見ていた。 === コウの部屋 === 「さっ、着いたよ。ユーリック早くっ」 「あ、ああ、分かったって……」 迷惑そうな顔をしながら、俺の心はウキウキだった。ああ、これからコウとの楽しい一時が…… ――ガチャ。 『あ、コウ嬢』 「コウ、遅いぞ。何やってたんだ」 部屋の扉を開けた途端、ユーリックの視界に飛び込んできたもの。それは黄色い小鳥と不機嫌そうな青年だった。 「……あれ?」 「どうしたの? ユーリック」 「え!? あっ……いや……」 ユーリックは現状が理解できず、入り口で立ち尽くしていた。よく見ると、青年達のいるテーブルにはごちゃごちゃと物が散乱していた。 「…コウ、ユーリックを連れて来たのか」 「うん、だってフェンはテラちゃんの子守で忙しそうだったから」 ―ええっ!? じゃあ俺ってまさか……まさか―っ!? 「他に暇そうなのユーリックしか居なかったんだもん」 ただの穴埋め―!? 「えっ!? コウ、一体何の話なんだ?」 「何って、見たら分かるでしょ」 コウはテーブルから数枚のカードを取り出し、ユーリックに渡した。 「みんなでやった方が面白いもんね、トランプ!」 「と……とらん……」 「ぷ」を言う前に、再びコウはユーリックの腕をつかんで部屋に引きずり込んだ。 もう抵抗する気力も無く、浅はかなことを考えていた自分に自己嫌悪する、可哀相な今日の俺。 「(はは、そうだよな。そんな艶っぽい展開期待してねーよ……(嘘つけ)。)」 [完] 07.11.25 前へ←次へ→ [戻る] |