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秘密の夜会(3章後) 


 ※3章ラストの後の出来事。

 深夜。

 クリスをなだめて部屋に帰した後、アモンはいつも通りある場所へ向かった。
 アモンが目指した場所は、ティレニア機関内最奥にある、禁断とされている宮殿。
 こんな夜遅くに、何をしに行くというのだろうか。

 アモンは裏を使って宮殿に入り中央の広間を覗く。そこには既に二人の男が居て、一人は執事のダイス、そしてもう一人がアモンの旧友、また良き理解者でもある、帝国の覇王リセイだった。

「よ、リセイ」

「アモン、今日は遅かったな」

 リセイと呼ばれた彼は今は偽装していなかった。つまり本当の彼の姿、リセイ=オルレアンだ。
 普段は職業柄真の姿は隠しているが、こうやって友人と過ごすときは姿を偽らない。リセイが警備兵フレアンとして振舞っている事をアモンは知っているのだから。

「あははは〜色々あってね……聞いてよリセイ君〜」

 珍しく疲れた素振りを見せるアモンにリセイも只事ではない雰囲気を読み取った。……が、聞いてみれば、ただののろけだった。

「――でね、クリスったら可愛かったんだ〜」

「そうか」

「あれ、反応薄いね、リセイ君」

「もう8回目だぞ、その話」

 リセイはため息混じりに応えた。傍で話を聞いていたダイスもくすくすと小さく笑いながらとある事を言った。

「しかし、物事に慎重な貴方が他者に気取られるとは。ガイアという方も優秀なのでしょうね」

 その発言に対しアモンは当然「ね――っ」と同意した。が、リセイだけは顔をしかめた。

「また、面白がっているな」

 リセイはアモンに向けてそう言った。何を面白がっているというのだろうか。ダイスはよく分かっていなかった。

「何の事?」

「お前がそんな下手なことをするはずが無い」

 リセイはそれだけを強調して言った。

「リセイ殿? それは一体……」

「わざと、だ」

「は? わざと……まさかっ……わざと見つかるようにしていた、ということですか!?」

 ダイスが驚いて声を荒げた。この指摘に図星を突かれたのか、アモンも嫌な汗を流す。

 何故そんなことをする必要があったのだろうか? それは、他ならぬ神軍軍総の密来だったから。リセイがここにいることを、決して他者に知られてはならない。だがもし何かあったときはここに居る帝国幹部陣を即座に動かせるようにしておきたい。

 洞察に優れたガイアとシェーンだけに気取らせるには僅かな隙を見せ、状況を正確に分析し半断させる機会を与えてやればいい。
 人を介しての連絡は出来ない。直接会うことも出来ない。それならこの方法が一番手っ取り早かった。

「そうだったのですか。味方も欺くとはさすが、と言うべきなのでしょう」

「ダイスさん、少々棘があるように聞こえるけど……まあいいか、俺はあんまり面倒な事はしたくない性質でね」

 アモンは苦く笑った。
 それを静かに見つめるリセイは何故か少し嬉しく感じた。それはアモンの作為が巧みであったからではなく、彼の行動を読み当てることが出来たということに対してだった。

 まだ自分の知る彼だと、昔と変わらずにいてくれていると、そう思う事で少しの安寧を得られたのだろう。

 アモンが神軍の配下に就かず王族司祭に志願した時は正直裏切られたと思った。
 けれど違った。
 アモンは自分の為に醜い貴族共の中へ入り権力を剥奪してくれた。

 今や誰もお前を責める事は出来ないだろう。それほど上の地位を獲得したのだから。

「――している」

「え? 何か言った? リセイ」

「いや……」

 消えそうな声で紡いだ言葉は、相手に届くことなく空気に溶けた。

 頼りにしている。誰よりも、な。



[完]


 2007.10.16 (C) りひと


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あきゅろす。
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