闇の輝星《03》 「わぁ! すごくきれいっ」 一面に広がる花園を見せられ、マリアは目を輝かせた。 しかし、軍基地であるクロス城に何故花畑などがあるのだろうか。 彼らが入城に使用した門は、表門ではなく、裏門――つまり特別な人間しか出入りできない入り口だった。 そこには城主の家族や家臣が生活しており、恐らくこの花園は親しい人間が造ったものなのだろう。 アモンは父の後ろを付いて行く。勿論呆けるマリアを引っ張って。 そうして辿り着いた先に、一人の男が立っていた。 男は身を覆っていた黒い布を取り去り、静かに近づいてきた。 「お待ちしていた、シーモア殿」 「おお、これはこれは、デス様。あなたが出迎えてくださるとは」 「どうしてもそなたに武具を造ってもらいたくてね。昨日から心が急いて仕方がないのだ」 デスは困ったように笑った。 これが、この男が神軍の長、覇王と呼ばれ崇められてきた帝国の闇騎士──か? アモンが感じたデスの第一印象は、だいたいこんなもんだったろう。 「今日は息子と娘を連れているのか。初めまして」 「……あ! は、初めまして」 「初めましてです。マリアといいます。こちらは兄のアモンです」 マリアが深々と頭を下げた。 これにはデスも相当驚いた顔をした。僅か4歳の子供が、ここまで上手に挨拶が出来ると言うのか……と。 兄のアモンは苦笑う。 妹の方がしっかりしていると思われただろうか。 そんな彼の心配を他所に、デスは父を連れて何処かへ行ってしまった。 恐らく武具の打ち合わせをするのだろう。 この時ばかりはアモンも参加せず、おとなしく父の帰りを待っていた。 「お兄さま、デスさまはとてもお優しい方ですね」 「う、ん。まあ、今はね」 アモンは詰まりながら応えた。 何故そう言うのか、まだマリアには解らなかった。 アモンの言葉が意味すること。 それは、デス=オルレアンの身の内に存在するであろう、闇の生業と無常な心。 それをアモンは、この短時間で感じ取っていた。 ←前へ|次へ→ [戻る] |