闇の輝星《09》幼き者たち
マリアの瞳に映った銀の少年は、誰より美しく優しい笑顔を持っていた。
心地いい空気が流れ、風はアモンの金髪を揺らした。髪を掻き分け、ふと塔の入り口を見やる。
すると扉は開いていて、そこに誰かが立っていた。
「! 誰だ!?」
咄嗟に声を荒げたアモンだったが、その人物が自分の知る者だということは直にわかった。
「お前ら、何やってるんだ?」
言葉使いは男の様であったが、その声色は紛れもなく女性の、いや寧ろまだ少女と呼べるものだった。
リセイの知らない人間だったらしいが、アモンが知っているようだったので警戒はしなかった。
マリアは最初驚いていたが、その訪問者が自分の慕う人間だと分かると、すぐさま走り寄っていった。
「クリスお姉様っ」
突然抱きつかれた少女は「うわっ」と奇声を放ったが、自分の体にしがみ付くマリアの頭を撫でた。
その様子を見てアモンはようやく声を出す。
「なにって、クリスこそ何でここに?」
クリスと呼ばれたその少女は、淡々と言った。
「何でって、お前ん家に行ったらアモンもマリアも居なくてこっちこそ驚いたぞ。おじさんにここに居ると聞いたんだ」
「あ、それで……」
「それより、何でお前らここに来たんだ? 今のクロス城が危険だということは分かっていたんだろ?」
アモンは何から説明すればいいか判らず、まごまごとしていた。リセイはアモンの反応の鈍さに気付き、不思議と可笑しくなった。
「アモンにも恐いものがあるんだな」
「な! なにを突然!」
アモンは更に動揺した。クリスはその声の主に気付き、姿勢を改める。
「リセイ様、勝手に入城したことをお許し下さい」
「勝手に? 門は通らなかったのか?」
「いや、その、正面からは絶対通してもらえないと思いまして、その、壁から……」
リセイに対し畏まった態度をとるクリスは、十分身分をわきまえた、立派な行為だっただろう。だが、この場でその態度は少々不釣合いにさえ感じられた。
「君もなかなか面白いね」
そう言ったのはアモンではなく、銀を纏ったリセイだった。
この時の天使の様に穏やかな笑顔を、アモン達はこの先ずっと心に刻み続けていくのだが――今はただ、その銀細工に見惚れているだけだった。
「面白い? “も”ってことは……」
「リセイ、それってもしかして俺のこと?」
アモンが言うと、リセイはにっと意地悪く笑った。
「よくわかってるじゃないか」
「っ!! やっぱり!!」
からかわれたような気がして、アモンは顔を赤らめる。しかしそれを見たリセイは更に可笑しくなって、声をだして笑った。
その瞬間、アモンとクリスは目を見開き、マリアは大きく口を開けていた。
「……? 何だ?」
リセイがそう聞くと、3人とも「なんでもない」と言って首を横に振った。
そのタイミングは見事に一致していたらしい。
またひとつ、笑顔がこぼれた。
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