19話 出発09 ここを、越える。 このバカ高い壁を、越える? 「な、何言ってんの? 無理無理!」 『そうですよ、私達はともかくコウには危険です』 「お前が手伝ってくれれば問題は無い」 彼が本当に問題なさそうに言うから錯覚してしまう。確かに彼なら造作ないだろう。カルロだって普通に飛んでるから関係ないとして、でも私は……実は、さっきから思っていたのだが、ルーンの風の守護が微弱になっている。多少の高さならいけると思うが、さすがにこの高さは無理そうだ。 「なんかね、ルーンの守護が弱くなったみたいなの。どうしよう」 「心配するな、カルロが蔓を出してくれるから」 『何勝手に言ってるんですか、私は誰かさんの所為で思うように力が出せません』 「カルロ、何かあったの?」 カルロまでそんなことを言うなんて、何かあったのかと疑うのは普通だ。 『いえ……はぁ、判りました。コウ、体にツタを巻きつけますからしっかり持っていてくださいね』 「え? あ、うんっ」 質問には答えてくれなかったが、この壁を越えられるならまぁいいか。コウは壁の前に立つ。カルロが壁の上の方まで飛んで行き、そこから蔓を垂らしてくれた。それを必死で掴む。掴んだと思ったら、その蔓が体に巻きついた。 「びっくりした! カルロ器用だねっ」 『舌噛みますよ』 「はいはい」 褒めると照れて冷たくなるので、これくらいにしておこう。コウはツルにしがみつく。体が浮いて、高い壁の上まであっという間に辿り着いてしまった。 「わー高い高い! ちょっと恐いけど……」 『ゆっくり降ろしますから掴まっててくださいね』 「うん、ばっちり!」 カルロは器用にツタを降ろし、ゆっくり着地出来た。籠もそう揺れなかったので、ルーンを起こさずに任務完了だ。壁の向こうは、平原が続いていた。所々道があり、それに沿って進んでいくと港町へ行ける様だ。平原を見渡している所に、カルロも降りてきた。 「フレアンさんも手伝ってあげなよ」 『彼には必要ないですよ』 「え、だって……」 こう高いと跳ぶのも大変だと思うけど。そう思い、壁を見上げる。 ...ザッッ... 見上げた瞬間に、上空を何かが通った。高い高い壁の向こうから、黒い影が飛び込んできて、そのまま落ちてくる。 あの高さから落ちたら半端なくないかっ!? 慌てたコウだったが、そんな心配は取り越し苦労に終わった。 トッ 黒い影は綺麗に着地し、必要以上の音は出さなかった。普通ならもっとドサァとかバサァとか酷い事になりそうだが。靴が地面に擦れる音しかしなくて。 着地の衝撃を抑えるために屈めた体をスッと伸ばし、体制を立て直す。そして何事も無かったかのように、こちらを向く。 「だから、フレアンさんは何者なんだよ」 誰にも聞こえない声で、そう呟いてしまった。 ←前へ|次へ→ [戻る] |