19話 出発06 神妙な空気が漂う。これが自分の迂闊さから生じたもの、と罪悪感にまみれる。そんなコウに気付き、フレアンは感情を抑えた。 「すまない、今すぐ必要な事でもないしな。また改めて聞くことにしよう」 その身の引き際が絶妙だったのか、カルロは少し驚いている。もちろんコウも。 「あ……っと、そうだ! さっきダイスさんから良いものもらってね」 この空気を壊したい!そう強く思い、コウは無理矢理話を変えた。 『良いものですか?』 「うん。じゃーん! かわいいでしょ」 コウが言ういい物とは……何の変哲もない、取っ手付きの籠。軽く蓋も出来る所は優れものだが。 『それの何がいいんですか?』 「冷めてるなぁ。これはルーン専用籠よ」 『……は? ルーンの?』 カルロはその籠の利用価値が判らない。それはフレアンも同じ気持ちだった。 「長い旅になるから、ルーンが寝る場所も必要かと思ってね」 『あれは精霊です。そこまでする必要ないと思いますが』 「ルーンが大衆苦手だって言ってたでしょ? この中に居れば気分的に少しはマシかなーと」 コウ達の話を聞いていたルーンは、コウの元にすっ飛んでいった。いきなり正面に現れてびっくりしたが、ルーンはとても喜んでいるようだ。 『コウ嬢……この様なお心遣い……』 「喜んでくれたみたいで安心したよ」 『コウ嬢――!』 ルーンが胸にしがみつく。よしよしと頭を撫でる。 『これが古の神とは情けない』 「カルロ! そういう事言わないの!」 『しかし……』 カルロは不服な様子。けれど、彼もルーンの事を気にはしていたのだろう。それ以上言うことは無く、扉の方へ飛んでいった。 「コウ、そろそろ……」 「あっはい! ルーン、籠に入ってていいよ」 ルーンはスッと籠に滑り込んだ。それを確認して、マントとセーレン・ハイルを手に取る。 「そんな軽装で大丈夫か?」 「うん! だって持っていくものないし」 フレアンは指摘したものの、確かにそうだな、と思い直した。 そしてコウに近寄り、長めの布を渡す。 「これ何?」 「それで剣を隠しておいたほうがいい」 「あ、そっか。こんなの持ってたら物騒だもんね」 お気楽思考のコウは、素直に彼に従った。物騒……確かにそれもあるが、フレアンの意図するものは、別の所にある。 セーレン・ハイル コウはこれを、何度も大衆の中で使用している。魂の救いとも言われるその剣は、『精霊の王』の為のもの。ここにいる見習いや軍人達は、そんな事は知らない。だから今まで何の問題も無かった。 ティレニアは国の機関と離れた部分にある。ここにいる生徒や教官は隔絶された中で生活する。逆に言うと、他の侵入は絶対に許されない。言い換えればここの生徒達は絶対的な庇護の下にあるのだ。 コウの存在がまだ世に知れ渡っていないのは、そのおかげ。 だが、これからは違う。ティレニアを出て、他国へ渡るなら、それなりの争いは覚悟しなければならない。セーレン・ハイルの意味を知っている人間など大勢いるのだから。少しでも危険を避けるためにも、セーレン・ハイルの多用は控えた方がいい。 そこまでの事を考慮した上での提案だった。コウがそれに気づく事はなかった。 ←前へ|次へ→ [戻る] |