[通常モード] [URL送信]
23話 海戦06*

 途中何人かの海賊に出くわしたが、剣を鞘に収めたままで相手を絶させ、その場を切り抜けた。巧みな戦術に、傍に居たフェンはコウの素性が気にはなった。だが、たとえ誰でも構わない。

 真っ直ぐな瞳の奥に、密やかに灯る火が、何よりも強く気高い者だということを表していたからだ。

 あっという間に二人は船長室に辿り着き、扉を開ける。既にユーリックも戦場に出ているようで、部屋の中には誰も残っていなかった。
 部屋に入るなり私は、大理石のテーブルまで駆け寄って、被せられた布を取る。そこには檻があり、中でルーンが静かに息をしていた。
 檻の中の精霊は、只の動物と同じだ。もちろんその姿はフェンにも見えていた。今のルーンは小鳥の上、かなり衰弱しているので、ルーンを弱い精霊なのだと思ったようだ。

「可愛そうに、こんな所に閉じ込められて…」

「外からでも開かないか…鍵があるのかしら」

 私は檻の蓋を開けようとするが、どうも力では開きそうに無い。これは特殊な檻。開けるのにも何か特別な鍵が必要なのかもしれない。それはきっとユーリックが知っている。

「ユーリックに会って問いたださないと…」

「カイルさんっまさか…戦場へ行く気ですか!?」

 今までの戦いぶりを見て、コウが戦闘慣れしている事は判る。だが、仮にもコウは女の子だ。いくら強くても、狂戦士が暴れ回る戦場に行かせるのは気が引ける。

「おやめなさい。貴方が行った所でこの騒ぎ、収まりませんよ」

「そうかもしれないけど、このままって訳にはいかないでしょう。少なくとも今ユーリックに死なれたらこっちが困るし」

「そんな…ですが…」

 コウは穏やかな微笑を見せた。それはフェンを納得させるに十分なものだった。

 −このひとなら大丈夫−

 フェンにそう思わせる、絶大な効力をもった笑顔。たったそれだけで、肝の据わりが予想できた。フェンはもう反論せず、「気をつけて」とだけ言った。

 私は海賊から奪った短剣をその場に捨て、ガラクタの中に埋もれた古い布巻の物を引き抜いた。そして布を外し、愛剣−セーレン・ハイル−を手に取り一安心する。信頼できる剣があるだけで、こうも気持ちが落ち着くものなのか、と自分でも不思議に思った。
 簡単に愛剣の手入れしていると、部屋の外から何者かの気配がして、それが真っ直ぐこちらに近づいてくるのを感じた。私は剣を軽く握り、その何者かを静かに待つ。

「あっ!? まだ商人の女がいやがった…! おい、さっさと始末しろ!」

「了解。悪いねあんたら、死んでもらうよ」

 船長室に乗り込んできたジャトー海賊の一味は、コウ達を見つけるなり斬りかかっていった。
 私は左手にルーンの檻を持ったまま、彼らの方へ向き直る。向かってきた4人の男は全員立派な剣を持っていたが、明らかに隙だらけの構えでこちらへ来る。

 まず、右前方から向かってきた男の攻撃を後ろへ流し、肘で背中に一発食らわせてやった。咳き込みながら前のめりになるその男は一旦放置し、真正面からくる男に対し備える。

 ガキィィン――

 真っ直ぐ振り上げられた剣を、勢い任せに振り下ろしてきた。私はそれを剣で受ける。直ぐに払いのけ、一歩前へ踏み込んで相手の腕を斬りつけた。
 男は血が出る腕を押さえ無防備になったので、軽く蹴りを入れる。案の定、男は後方に倒れた。



←前へ次へ→

59/102ページ

[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!