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22話 海の住人08
  
 船に上がると、溺れた子供と、子を抱える母親が座り込んでいた。子供の方の意識は依然ないままだが…。今の母親には周りに気を遣う余裕などないのだろう。命の恩人のコウに対して何も言うことはなかった。

 私は海水をいっぱい含んだ服をぎゅっと絞る。ジャバジャバと海水が落ちていった。

「カイル! よく無事だったな。怪獣を倒したのか!?」

「……そんなことするわけないだろ」

「えっ!? でもあの怪物は間違いなく伝説の……」

「彼は怪物じゃないし化け物でもない」

 人間の浅はかな考えに苛立ちを覚えた私は、商人達に対しても怒りを露わにした。急な態度を不思議に思う商人達。だが、無理もない。彼らは海の怖さを親から伝えられてきただけなのだから。

「リーダー! あんたまで飛び込むからひやひやしたぜっ」

「俺はいい。早くカイルを暖めてやれ、風邪をひく」

 話をそらそうと船長に話を持っていったが、返り討ちにされた。船長も何やらご立腹の様子。関係のない商人達は静かに持ち場に戻っていった。この場の空気に耐えられなかったのだろう。

「カイル、ほら、このシャツに着替えとけよ」

「……ああ」

 ある商人から渡された大きなシャツ…サイズはだいぶ違うが、この際何だっていい。コウは着替えようとして、気付く。今の自分は男のフリをしていて、実は女で、こんな大勢いる場所で着替えたら絶対バレる、ということに。
 慌てて着替えを中断し、自分の部屋へ戻る事にした。

「カイル? 何処行くんだよ」

「部屋で着替えてくる。シャツありがとうな」

「? ああ」

 コウの行動に不審さを感じた商人だったが、そう気にすることなく自分の仕事に戻った。その様子をじっと見ていた船長−ユーリック−は、ある疑惑が確信に変わった様であった。

「あいつ…やはり…」

 ぽつりと呟く声を誰も聞き取る事はなかった…


 自室へ向かう途中、運転室へ寄り、事の旨を話した。海獣が教えてくれた、なんて言っても理解してくれないだろうと考え、気候の変動やら風の向きの異常を訴え、説得させた。もちろん気候とか風とかの事はでたらめだけどね……。



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