22話 海の住人04 ゴポポポ…… どれだけ息が保つか解らない。普通は1分くらいだろうか。海中では目も満足に開けられない。 どうやって探せばいいのか途方にくれるコウだったが、やがて海の中に人の気配を感じ取った。 「(あれ、もしかして……人)」 ぼんやり見えるその姿は、小さな体に手足が4つ、海の流れに身を任せるように力尽きてぐったりとうな垂れている。 一刻も早く上に上げなければ、命はないだろう。 コウはグッと足に力を入れ、更に奥へと潜ると、子供の手を捕まえた。 「(意識は……ないみたいね……)」 コウは子供を抱えると、身をひるがえして上方へ向き直り、海の上を目指して必死に泳いだ。 自分が泳げた事にも驚いたが、こうまで息が続くものだと関心もした。 とっさに火事場の馬鹿力という言葉が脳裏に浮かんだ。 ザパンッ! 「ぷはぁっ! くっ……苦しっ」 酷く咳き込みながら、一旦呼吸を整える。腕の中でぐったりとしている子供を見て、不安が渦巻く。 助けられなかったのだろうか? あの時もっと早く飛び込んでいたら…… そう気落ちしていると、子供の喉が動いた。ほんの僅かだが、確かに動いたのだ。 まだ……生きている。 「しっかりしろ!」 コウはすぅっと大きく息を吸い込み、子供の起動を確保した。 海に浮かんだまま、充分な対処は出来ない。だが、もう躊躇う時間はない。吸った息を子供に与えるように、ゆっくりと人工呼吸を始めた。 船から見ていた船員らは、コウの突然の行動に目を丸くする。 唖然とした状態だ。母親は尚も祈るように手すりにしがみ付いていた。 「げ……ぇっ……げほっ……」 子供の喉が大きく膨らみ、飲み込んだ海水を一気に吐き出した。 咳き込みながらも、必死で息をしている様子を見て、コウも安心する。 「おーい! このロープに括り付けろ!」 船の上からロープを降ろされ、それに掴まる。まずはこの子を上げようと、子供の腰にロープをくくりつけた。 ゆっくりと引き上げられ、子供は無事大人の元へと手渡された。それを見届けてから、コウも二本目のロープに掴まる。 その時……異常に気付いた船員が注意を促した。 「おいっ! 何だあれ……」 「あれは……海獣!? まずいっカイル、早く上がって来い!」 コウの後方まで迫ってきている黒い影。その存在に気付いたコウは、とっさに腕の力を強めて体を海から上げようとした。 だが、そんな行為も無駄に終わる。 まだ上がりきっていない片方の足に何かが触れ、瞬時に強く引っ張られた。 その反動でロープを掴んでいた手は離れ、後ろ向きに海に叩き落とされる。 ザブンッ…! その激しい波打つ音と共に、コウは海の中へと引きずり込まれた。 船員達はその一部始終を見ていたにも関わらず、何も出来ない。 肩を震わし、声も出ないまま、ただ静かに海に呑まれる少年を見ていた。 ←前へ|次へ→ [戻る] |