21話 海賊船13
――消灯時間――
船は一斉に静かになる。ただ波の音だけが聞こえる。穏やかな夜…
コウはベッドに座り、俯いていた。
これから、どうしよう…。恐らくこの船は西国へ渡る。途中で船を降りても、周りには海しかない。
それよりも、反感を買って無人島に下ろされでもしたら……。
不安が渦巻く。先ほどから、「どうしよう」ばかり言っている気がする。
でも、これ以上気持ちが浮上しない。
フワっ……
「……? なに……?」
ふと、真っ暗な部屋の中に、小さな明りが灯った。人ではない。生き物でもない。これは…
「ルーン!!」
『しっ! 静かに…商人達が起きてしまう…』
「あっ……」
目の前に、薄い黄色の光の塊が浮いていた。なぜだかそれを「ルーン」と呼んでしまったが、当たっていたらしい。光の塊はゆらゆら揺らぎ、不安定な感じがした。
『精神体を送ろうと思ったのですが、やはり檻にかき消されるので…気配だけ飛ばしているのです』
「そ…、そうなんだ……よかった……」
『コウ嬢、この檻を壊そうと思えば壊せます。この様な所、一刻も早く脱出すべきです!』
しばらく考えた後、コウが発した言葉は。
「駄目、よ」
『!? どうしてっ……』
「今、ここで騒動を起こしたら、私達は海に落とされるかもしれない。下手に手出しできないわ」
『っ……ですがユーリックとかいう商人は貴方を金で買ったのですよ!? 許す事は出来ない……!』
ルーンの心はいつも以上に乱れていた。冷静でいれるはずがない。自分達の王を、物扱いされた…。
人として……王として、優しく心強く、その存在は精霊も人も全てを包み込む…そんなコウを。
「今は抑えた方がいい。商船といっても海賊とつながっている、下手に動かない方がいいわ。時期を待とう?」
『……あなたがそう仰るのでしたら』
ルーンは少し元気を失くした。無理もない…特殊な檻の中では、精霊の力は一切及ばない。
つまりは、精神を糧とする精霊の、その糧をも無効化するということ。あの中にいては殆ど動けないはずだ。
ルーンは「壊せる」と言ったが、それは恐らくルーンも危険に晒されるのだろう。コウは感覚的にそれが解っていた。
「辛くはない? ルーン……ごめんね、すぐに助けてあげられなくて……」
『そんなっ! 私がもっと注意していなければならなかった事です! 貴方の所為などでは……』
「くすくす……帰ったらきっと二人の小姑に一日中説教聞かされるわね」
先の見えないこの状況で、可笑しそうに笑えるコウは決して鈍感なのではない。不安そうなルーンを安心させる為。それも、無意識のうちに冗談を言ってしまう。
コウの先天的能力とでも言うのか。それとも、育った環境がそうさせるのか。
ルーンには知る術を持たないが、今この時を乗り越える事が何より大切だ。そう感じた。
『そうですね……。では、そろそろ戻ります。西大陸に着き次第ここを離れましょう』
「ええ、それまでルーンも気をつけて」
そうして、薄黄色の光の玉は闇の中へ静かに消えてしまった。
名残を惜しむコウだが、寝不足は明日に響く。今夜はきちんと睡眠をとらなくてはならない。
窓に浮かぶ月を眺めながら、眠りについた――。
21話「海賊船」[完]
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