21話 海賊船03
===== 船長室内 =====
「珍しい物が手に入ったらしいな。どれ、見せてみろ」
「かなり貴重なものだ。そうは無いぞ」
船長は怪しげに笑う。対する男は冷静だ。
だが、袋から出された小さな檻を見て、訝しげな顔をする。
「……何だ? この小鳥は」
「精霊だ」
「!? 精霊!? これが…」
男は珍しい物を見るように凝視している。
中に入っているのは、黄色の小鳥。ルーンだ。だが、彼女は何もしない。何の抵抗もみせない。普通囚われていたら、逃げ出そうとするものだ。
それに、精神体の精霊を、檻で捕まえれるはずがない。
「初めて見るだろう? この檻は以前西国で手に入れたものでな、精霊の一切の力を失くすらしい」
「そんなものがあるのか、凄いな…。どうりで俺にも見えるわけだ。檻の中では普通の動物と変わらん、ということか」
「…さて、ユーリック、いくらで買う?」
ユーリックと呼ばれたその男は、少々難しい顔をしながら唸る。船長はぎらぎらとした目で男を見つめる。
それは欲に目がくらんだ男の姿…――。
船長は、珍しい物も好きだが、それを高く売りさばくのも趣味だ。そういう闇売買の仲間が海の上には大勢いる。
ユーリックもその中の一人。だが、彼は少し違っていた。珍しい物は好きだが、あまり外道な事は好まない。
――この精霊、このまま誰かに売られ、挙句の果てには殺されるのだろうか。
ユーリックの表情は強張る。
この男の事だ。そう易々とは売らんだろう。
「1億2000万パル」
提示された破格の取引金額に、船長はたまげた顔をした。
そして何度か聞きなおし、やはりその金額であることに間違いないと判ると…――
「よっし! あんたに売った!」
船長はご機嫌だ。そしてワインを取り出し、「飲め」と勧める。
ユーリックも素直にそれを受け取る。
今日は出発の日。昼間から無礼講であった。
こういう事に慣れないコウは、酒臭い男共の世話をしながら「早く帰りたい」と思っていた。
1億2000万パル=1000万円。この金額で精霊が売買される事はありえないことだった。このユーリックという男西国では名の知れた商人。そして一見心優しそうな青年。でもその実態は……
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