20話 港町リノア11
この世界には沢山の精霊がいる。人々は精霊と契約し、その力をもって生活している。だが、正式な順序をふまずに精霊を手に入れようとする輩もいる。そういう奴らが特に多いのが、海賊だ。彼らは自由に海を渡り、様々な場所で珍しい物を集め、金持ちに売る。当然精霊もその商品として扱われる。
迂闊だった……。世間はこんなに危険だったとは。
「ガラージルス海族団、今やこの辺の海を仕切ってる奴らさ」
「……さっき揉めてた男も?」
「ああ、あの野郎……精霊は高く買ってやるっていったのに。小さいからって1万パルなんて詐欺だぜ!」(=約833円)
この男は救いようが無い。詐欺というお前は泥棒だろうが。
「なぜ精霊に気付いた? お前も契約者か?」
「俺じゃねぇ、取引相手の奴が風と契約してるらしいぜ。同系種の精霊は見えるんだろう。俺は最初籠の中に何も入ってなくてがっかりしてた」
私は深くため息を吐く。人様から盗んだものにがっかりも何もないだろうに。
精霊と契約している人間は沢山いる。いくらルーン達が力を制御していても、力の強い人間には存在が知れる。ティレニアにいるような感覚でいてはいけない……ここは殻の外。隙を見せては終りだ。
「そのガラージルス海賊は今何処にいる」
「さぁ、たぶん今日の夕方には出航するだろうな」
今日の夕方!? 今正午を回った所だから……普通に時間が無い!?
「お前まさか取り返しに行く気か?」
「当然、船は港ね」
「そうだが……やつらには逆らわん方がいい。あんたがどっかに売られちまうぞ」
「私はそれほど弱くない」
そう吐き捨て、コウは港へ急いだ。その後姿を、泥棒男は呆然とただ見ていた。
「何だ、あの女……」
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港に船なんかいくらでもある。その中から見つけ出すのにどれくらい時間がかかるだろうか。そんな心配をしていたコウだったが、あっさり解決した。
ガラージルス海賊船
港に、大きくて派手な船があった。その帆にでっかい文字でそう書いてある。分かり易すぎる……。
「すぐ見つかってよかった。男はさっきの所にはもういなかったもんね……きっと船に戻ってるんだわ」
海賊船の周りには、出航の準備を気ままに進める海賊達の姿があった。見た目は普通のオヤジが多いけど、中には短気そうな若い衆もいる。
「この格好で行ったら即どうにかされそう」
海賊なんて、信用置けない。裏で何してるかなんて、考えも及ばないわ。
「久しぶりに、やりますか」
コウは近くの店で慣れた様にブツを購入する。それはもちろん、「カ」のつくアレですよ。コウはこっそり人気のない場所へ向かう。丁度いい袋に着ていたワンピースを詰め込み、先ほど購入した少年服に着替える。そして、白銀の偽髪を器用にかぶる。
海賊版カイル君の出来上がり!
これで男に見える所が虚しいが。
20話「港町リノア」[完]
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