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古の恋人《16》*

 カルロは人型になり、適当に身なりを整え、途絶えし王族の居る館へ向かった。当然門前払いされる所だったが、カルロの姿があまりに美しかったので、城主は快く受け入れた。

「ほう、ではお前は風の神の使いと申すか」

『……はい。風の神が森でお待ちしております』

「そうかそうか! はっはっは! 神がこの私に傅いたか!」

『…………』

 内心吐き気がする思いだったが、それを表に出す事はなかった。

『しかし神の力は膨大なもの。森に入るのは精霊王の体と、それに見合う徳を持つ……貴方の様な者のみにして頂きたい』

 その申し出を聞き、悪しき王族共は怪しい笑みを浮かべた。

「なるほど。強い力はそれ相応の人間が継ぐべきだと言うか」

『……はい』

「はっ! 面白い! ここに居る者達は皆ティレニア王国の正当な貴族ぞ。お前の言う通り、我らだけに神の力が与えられれば良い!」

 傍に仕える者達も皆、狂った様に笑い出す。それらの狂状に耐えるカルロは、何度も襲う眩暈に気を失いそうだった。

『それでは神に見定められし聖者達よ、森にてお待ち申し上げる』

 そう言い残し、カルロは逃げる様にこの場を去った。


 === 名も無い森 ===


 力を得る事に狂った人間共は、程なくして森に姿を現した。皆手には得意の武器を持ち、ティレニア王国を印す旗を、さも誇り高そうに掲げている。

『来たか……人間共が』

 密林に身を潜めていたカルロは愚かしい人間共の動向を逐一観察し、その時を待った。奴らに、精霊達を己の欲の為だけに利用した、哀れで愚かな人間たちに、死の恐怖を与えてやる、その時を。

 愚か者に神の裁きを与えよ。
 精霊達は皆、そう囁いた。

 悪しき王侯貴族達は列を連ねて森に侵入した。その中にルシアの遺体が有る事を確認し、カルロも彼らの前に現れる。

「おお、風の神の使いか。神はどこにいる、早う連れ出せ」

『はい、こちらに……』

 カルロは内に嫌悪感を募らせながら人間共を森の奥へと案内した。人間共は何も疑いもせず森の奥深くに誘われる。深く、深く……どこまでも続く獣道を行く。

『さぁ、ここです』

 ようやっと神の居場所に辿り着いたと知った人間共は、それまでの疲れも吹き飛び、我先にとカルロの指す方へ走っていった。

 ― 哀れな人間に、死を ―

 そう囁くはシルフの歌声。だがそれに気づく者はいなかった。

「神の力は私のものだ――!」

 誰も皆そう叫びながら、大きく開けた場所へ出る。その中に一人、金の少女が立っていた。

『?』

「い……居たぞ! 風の神とはあれか!?」

 人間共は疑いながらもルーンを見た。非常に卑しい目で。カルロは静かに後退し、これから起こるであろう惨劇をただじっと待っていた。

「神よ! 我に力を!」

『……』

 ルーンの目は死んでいた。が、その視界に飛び込んだ愛しい男の顔に、小さく声を出した。

『……ルシア……?』



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あきゅろす。
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