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古の恋人《12》

 ルーンが創り出した大らかな風の去る様を見つめる、カルロとジン。
 樹の守護精霊と大地の精霊は、大概を共に過ごした。それは彼らの属性を考えても分かるように、互いに必然の関係にあるからだ。
 樹は地を制し、樹は地に依る。

 今カルロが居るのは中央大陸北部の森。四季が明確で、冬は極寒となるこの地に、最初に聖域を創った。
 カルロはこの森に護神木を建て、それらを社に世界の管理をしていた。

『ジン、そうは言うが、本当に大丈夫なのか?』

『あらあら、カル坊に心配されては私もおしまいね』

『坊を付けるのは止めろとあれ程』

『あら、だって私は貴方の幾千万倍も生きてますもの。赤ん坊同然ですわ』

 いつもの事だが、カルロは深く溜息を吐く。

『でも、そうね。そろそろ限界かも』

 ジンはそう言いながら、自身を大地に溶かし始めた。

『ジン、しばらく地中で休養を――』

 そうカルロが言いかけた時、森に強風が吹き荒れた。だがそれはルーンのものでなく、

『樹の神ぃっ! た、大変大変よーっ』

 強風の主は数匹のシルフだった。大変慌てた様子でカルロの前に現れる。

『何だ、シルフ共』

『そっ、それが大変な事が』

『何があったかを言え』

 カルロは苛立ちを込めて言い放つ。シルフは呼吸を整え、再び伝達する。

『たった今、南大陸の人間が精霊村を襲ったのよ――っ!』

『精霊村を!?』

 カルロは地に半分溶けかけたジンを見る。ジンも先ほどと違って険しい顔をしていた。

『まさか……ではこの血は……』

 ジンは全神経を大地に集中させ、遠く離れた南大陸の地精霊を呼び寄せる。これは精霊特有の意思伝達方法だ。

『……! そう……そういう事……ね』

『ジン、何か分かったのか?』

『ええ……さっきからずっと大量の血の匂いを感じていたの。革命が起こっている西大陸に流れた物だと思っていたけれど、違ったわ。南大陸の地に人間の血が染み込んでる。しかもこの量……かなりのものよ』

『だから言ったでしょー! 大変だってー!』

 シルフはもう混乱状態で、ぐるぐると空中を飛び回っていた。

『あの子が……ルーンが危ないわ。カルディアロス!』

『分かっている。ジン、貴方はこのまま地中に逃げろ。後は私がどうにかする』

『カルディアロス……ごめんなさいね……』

 ジンは申し訳なさそうに言う。カルロは背中を向けて、構わないと呟き、異常が起こっている南大陸へと向かった。


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