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闇の輝星《17》

 クロス城内は以前とは比べものにならないほどの活気に満ちていた。
 城主リセイの座椅子は常に磨かれ、城の中央に連なる大円柱も全て丁寧に掃除され、各主要官が座る椅子も良質な物を用いていた。
 それらを揃えたのは勿論リーチェル家で、彼らは覇王デスの友好貴族でもあった。

「よー! リセイっ、元気にしてたか!」

「お兄様ったら、この間お会いしたばかりですわよ」

 無邪気な兄を叱る妹。そんな少しずれた二人の関係を面白そうに見ているリセイは、普段と違って可愛らしい笑顔をしていた。

「引越しは大変だっただろう、アモン。部屋も用意してあるから、ゆっくり休んでくれ」

「ああ、お言葉に甘えてそうさせてもらう。行こうマリア」

「はいっ」

 綺麗な赤い絨毯の上を、恐る恐る渡るシーモア兄妹。部屋へはクリスが先導し、3人は他愛も無い話を楽しんでいた。

「リセイはいつも仕事仕事で大変だな」

 今もまだ会議や他家訪問に走り回るリセイを案じ、アモンはクリスにそう言った。

「そうだな。リセイ様はとにかく能率のいい方だから、皆もつい頼ってしまうんだろう」


「おいおい、リセイはまだ10歳そこそこだぞ。どんな頭してんだよ」

 自分が10歳の頃なんか、親父にくっついて仕事風景を眺めていただけなのに。

「それだけ凄い人なんだ、リセイ様は。というか、お前ら知ってるか?」

「? 何急に」

 クリスは突然話題を変える。それはいつもの事なので、アモンも軽く流したが。

「あそこに居る、糞ガキの事」

「────よぉ」

 ちょうどアモン達が正面を向いたとき、廊下の端から知った声が聞こえてきた。その声は、その言葉遣いは……。

「お、ま……え!?」

「おまえじゃない! アークだってばっ」

「いいいや、そうじゃなく……え、何でおま……アークがここに!?」

 アモンは予想外の事に動転していた。だが幼いマリアは素直に受け止め、アークの元に走り寄って行った。

「アークっ、久しぶりだねっ」

「よ、マリア。俺、この間からここに住まわせてもらってんだ。ついでにリセイ様の護衛もしてる」

 そう自慢げに言うアークは、護衛とか言いつつまだ8つだった。勿論アモンが馬鹿にする様に言う。

「ははっ、お前がリセイの護衛? 無理無理」

「本当だぞ! 俺はリセイ様に付いてくって決めたんだからなっ」

「おいおい、何があったんだよ。大体リセイ“様”って……」

 以前と呼び名ががらりと変わっている。明らかにアークはリセイを慕っている様だが、いつの間にそんな関係になったのか、それはアモンが分からなくても当然だった。

 一通りの事情を聞いているクリスが、アモンに耳打ちする。

「この間──でな、ちょっと様子見てるんだ」

「……そうか。あいつ、そこまで自分を追い詰めてたんだな」

 マリアは必死に耳を寄せるが、兄とクリスが何を話しているかは全く聞こえない。
 知りたい気持ちが先走り、思わず甘えた声を出す。

「お兄様、マリアにも教えてくださいっ」

「──ああ、マリア……そうだな……あと少し大きくなったら、な」

「少しって、どれくらいですか? クリスお姉様くらい背が伸びたらいいですか?」

 真剣に答えるマリアを見て、クリスも困ったように返す。

「……そうだな。それくらいになったら……」

 そう曖昧に答えるのも、無理は無い。

 アークの両親や村人が全員戦争で死に、生き残ったアークの叔父は絶望に狂ってリセイの命を狙った。その罪で彼は今、帝都の牢獄に入れられている。
 アークの行為は未遂とされ、何のお咎めも無しにこの城にいる訳だが、それをアーク本人はちゃんと理解していた。
 彼もまた、叔父以上に深い傷を負ったのだから。


 この日から、クロス城には笑顔が絶えなかった。
 アークやマリアは仲良く遊び、クリスとアモンがリセイの補佐をする。


 そうして午後には皆が集まり、裏庭で茶会をしたり、走り回って遊んだりしていた。確かに大人の手助けは少なかったが、子供だけでも自分達なりに楽しみを見つけ、生き甲斐を探し、健やかに育っていった。

 戦時中にも関わらず、こうして培われた絆は、十何年経った今でも消える事は無かった。



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あきゅろす。
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