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闇の輝星《16》親愛なる友


=== ランタンの町 ===


「これは、デス様!? この様な時間に何事ですか!?」

 月が夜空を明るく照らす中、そう叫んだのは鍛冶職人のルドだった。
 寝所で眠っているアモンやマリアを起こさない様に、デスとルドは静かに表に出る。

「夜分に済まない」

 デスの顔色は明らかに悪かった。

「一体何があったのですか」

「帝王様直々に命令が下された。ランタンの鍛冶職人ルド=シーモア及びその父ランドール=シーモア、両者の赴任先を東国バンテール町に決定する、と」

「!? 我々が東国に、ですか!?」

 思わず大声を出したルドは、咄嗟にその口を押さえる。

「これは帝王のご意思だ。逆らう事は出来ない」

「そ、それは。しかし何故私の父まで?」

「人手は多い方がいい。息子もと思ったが、さすがに幼すぎる」

 帝王クライスは、鍛冶職人のルドや彼の父ランドールに加え、息子のアモンまでも他国に出そうとしていたのか。
 それは帝王が何かに焦っている証拠だ。

「東国バンテールですか。そこで我々は何をすればいいのですか?」

「その町の東には良好な鉱物が取れる鉱山や火山がある。その物資を使って出来るだけ多くの武器防具を開発、生産してくれ」

「それは……承知しましたが、宜しいのですか? その鉱山物資は東国の保有物でしょう」

「だから公には出来ない。出身も偽ってバンテールに行ってもらう。いいな」

 デスの口調は威圧的だった。まるで帝王の意思をそのまま伝えているかの様に。
 鍛冶職人が武器や防具を作るのは当然で、出身を偽れと言うのは少々気が引けるが、それでも無理な仕事ではなかった。

「畏まりました。ただ、息子たちを放ってはおけません」

「案ずるな。クロス城で保護する。バルト卿にも了承を得てあるから」

「は……そうでしたか。それなら心配ないですな」

「船の手配もしてある。バンテール町の東北側に古屋を買い取ってあるから、そこを自由に使え」

「……はい」

 何から何まで準備をしてもらっている。自分はただ外国に行っていつもの様に武器を作るだけ。こんなに楽な仕事があるだろうか。
 ただ、全ての事がひとつの目的に向かっている様で、しかしそれが何かは分かる由も無く、ルドはただ従うしかなかった。


 *****


 朝方、クロス城。

 またいつもの様にリセイとクリスの元へ向かうシーモア兄妹は、今日は両手に大きな荷物を抱えていた。
 城の門前で、体に不釣合いな程大きな荷物を抱える子供達を見た門番が、慌てて駆け寄る。

「シーモアのガキじゃねぇか! こんな大層な荷物持って、一体何がどうしたってんだ!?」

 門番は大声で問いかけるが、アモンやマリアは嬉しさの余り笑顔で返す事しか出来なかった。
 そこへやって来たのが、威厳漂うリーチェル家の長、バルト卿。

「この子達は別けあってこの城で預かる事になったんだ」

「バルト様! 預かるって、ええぇ!? この平民のガキ共をですか!?」

「口を慎めよ、この子達はリセイ様の親友でいらっしゃるんだぞ」

 と、冗談交じりに言うバルト卿は、優しい笑みでシーモア兄妹を迎えた。

「親父さん、今日からお世話になります」

「よろしくおねがいしますです」

「うんうん、礼儀正しいね。さすがはルドの子供だ」

 帝国一の鍛冶職人ルド=シーモア。彼は古き貴族リーチェル家にも大変評判だった。

「さて、城内でリセイ様とクリスが待っている。入りなさい」

「「はい!!」」

 そう元気良く返事をした二人は、仲良く手を繋いでクロス城に入っていった。



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