闇の輝星《02》 マリアがクロス城に行くのは今日が初めてだった。 鍛冶職人の父を持つ彼らは、幼い頃から父の仕事を手伝ってきた。 アモンもマリアも飲み込みが早く、子供ながらに大変役に立っていたらしい。 マリアを城まで連れて行くにはまだ幼いかとも思ったが、誰よりもしっかりしている彼女は、表に出しても十分恥ずかしくはなかった。 「お兄さま、リセイさまってどんなひと?」 出かけ支度の途中で、マリアがぽつりと呟いた。 アモンは少し得意げに話す。 「リセイはマリアの2つ上かな。銀色の髪がとても綺麗な子でね。真紅の目が銀によく映えていて、不思議な雰囲気をもつ子だよ」 「銀色の王子さま?」 「あはは、まあそんな感じかな」 マリアは頬が少し淡く染まった。おとぎ話に出てくるような王子様を想像していたのだろうか。 ほのぼのとした雰囲気の中、怒りのオーラを出している者が一人いた。 父だ。 「この馬鹿息子! ご子息にはちゃんと“様”を付けろ!」 「わわっ、ごめんなさいっ!」 もの凄い剣幕で怒鳴る父に反抗など出来ず、アモンは素直に謝った。 その様子を笑顔で見つめるマリアは、アモンに手を引かれながら父と共にクロス城へ向かった。 「お父さま、マリアは何をすればいいのですか?」 道中、父や兄の歩幅に必死で合わせながら、少女は質問した。 それに答えたのは兄の方だった。 「マリアはいつも通り、鉄粉を集めてくれればいいんだよ」 「わかりました。たくさん集めますっ」 マリアはにこりと笑った。 その笑顔を横目で見ていた父は、少し悲し気な目をしたが、子供らに悟られないよう、直に目を伏せた。 マリアは母親似だった。 だが見ての通り、先ほどから母親の影は一つもない。 何故なら彼らの母親は、数年前に亡くなっていたからである。 父親一人で育ち盛りの子を二人も育てるのは並大抵ではない。 だがアモンはしっかりしているし、マリアもそんな兄を見習ってか、とても大人しい女の子だった。 聞き分けの良い子供たちを育てるのに殆ど苦労はなかったと父は言う。 「さあ、着いたぞ」 父は顔を上げ子供たちに向かって言った。 その声を聞きアモンは妹の手を引くと、クロス城の門をくぐった。 ←前へ|次へ→ [戻る] |