闇の輝星《01》銀の王子様 「リセイさま?」 桃色の大きな瞳をぱちくりさせながらそう聞き返したのは、まだ小さい少女だった。やわらかなウェーブのかかった淡赤の髪が、肩の辺りでくるんと巻いている。まるでお人形のような女の子。 「マリア、今日は父さんと一緒にクロス城へ行くんだよ。その城主の息子がちょうど我々と同じくらいの歳でね。失礼のないようにしなくちゃだめだよ」 「はい、お兄さま。おとなしくしています」 「良い子だね、マリア。さあそろそろ支度を始めようか」 「はいっ!」 この時マリアは4歳だった。5つ上の兄、アモンは、今まで何度か父に連れられてクロス城へ行っていた。 世界の中央に位置する大陸全土を支配する、帝国フィルメント。その国の軍事を司る部隊は二つあり、一つは常備軍の役目を果たす聖軍。そしてもう一つが、帝国を影から支える特殊軍隊“神軍”だ。神軍の本拠地は大陸の北部にあり、クロス城が神軍の本城である。 クロス城の城主、デス=オルレアン。彼は闇の精霊と契約しており、覇王として恐れられていた。デスの能力は全てにおいて誰よりも長けており、クロス城内では帝国王よりも敬われていた。 覇王デスの息子、リセイ=オルレアン。まだ7つになったばかりの少年だったが、歳相応とは言えない思考力と判断力を持ち、また武道にも通じていた。必ずしも子が受け継ぐと決まっている訳ではないが、デスの後継者がリセイであることは周知のことだった。 それ故、同じ年頃の子供からは避けられ、話す機会など殆ど無く、幼少より物寂しい毎日を送っていた。 そんな時、デスが一目置いている鍛冶職人が城を出入りするようになり、その者と共にやって来る金髪の少年、アモンと出会った。 二人が初めて出会ったときは、お互いの印象は悪かったらしいが、なんのことはない。直に仲は深まった。 そして今日―― 彼らシーモア兄妹の運命を変える日となる。 ←前へ|次へ→ [戻る] |