心の絆《02》
オレは人間という生き物が大嫌いだった。
オレを欲しがる人間は皆、権力や武力に飢え、それらを激しく欲していたからだ。
“銀”を手にしたところで、誰もが羨むほど豊かに暮らせようか。
“銀”を手にしたところで、世界一の剣豪になれるというのか。
そんな事は有りはしない。
だが人間はそれが分からない。気付こうともしないのだ。
なんと単純で、複雑で、阿呆な生き物なのだろう。
オレは誰とも接しない。契約など結ばない。
そう誓った。
『シルバーレイ! どっちが純度が高いか競争しようぜ』
『またかよ、どうせオレが勝つんだからいい加減諦めれば?』
シルバーレイは同じ銀の精霊に向かって冷たく反応した。だが相手はそれに嫌悪を抱くわけでもなく、いつものことだと軽く流す。
ここは、帝国北部の銀山。
古くから形成されていた大地で、水も澄んでおり、美しい情景が生きるもの達の癒しになる場所だった。
存在そのものに価値があった。
高度の高い所には小さくはあるが湖もあり、その水面に輝く銀山を映していた。
それらの湖の畔で、銀の精霊達は仲良く遊んでいた。
『でもさぁレイ、最近仲間の数減ったよな』
『どうせまた人間が荒らしに来たんだろう』
シルバーレイは表情を険しくさせてそう呟いた。
この憎しみこもった発言に相手の精霊も静かに頷いた。
ここにいる精霊は皆人間を好いてはいない。
この山の頂上付近では純度の高い鉱物が採取できる。そのため帝国人も皆こぞってそれらを求めにやってきた。
銀山下部はもう既に人間によって踏み荒らされ、精霊は徐々に消えていった。
ふもとに広がっていた密林も同様に消え失せた。
数百年、数千年という長い年月を重ねてきた木々たちが、森が、たった10年で灰と化してしまった。
それが人間の所為ではないなどと、偽善でも言えない。
今やもう銀山の下部は只の荒地となり、中部には枯れ木が立ち並んでいるだけだった。
上部は植生域から遥かに外れ、緑は皆無。
あるのは風化した大量の銀のみ。
そしていつかはこの銀鉱も……人間に荒らされるのだろう。『ここは大丈夫だよな? だって人間は住めない環境だもんな?』
レイの隣にいた精霊は不安を抱えた様子でそう言った。
レイは肯定したかったが、そうはいかないことなど分かりきっていた。
彼は人間が貪欲な生き物だと知っていたのだ。
『人間は住めない場所にも入っていく。そこを好きなだけ荒らして、後は放置して帰るんだ。無責任な奴らだよ、あいつらは』
シルバーレイの視線には生きた感じが全くなかった。
つまり、死んだ目をしていた。
遠くを見るように、できるだけ現実から逃れるように、レイはゆっくり目を瞑った。
精霊たちの悲鳴が聞こえる。
助けて、私を救って、ここから出して。
――そうやって、悲痛な叫びを木霊させている。
ああ、憎い。人間が憎い。
『人間なんか滅べばいいのに』
レイは誰にも聞こえないように、小さく吐き出した。
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