9話 消せない過去01
=== 宮殿内 ===
ティレニア軍事機関の最奥にある、宮殿。ここは一般の生徒や教師でさえ立ち入り禁止の場所である。そのため普段は中に人がほとんどいない状態だが、今はコウを含め多くの人間が中にいる。
アムリアが現れる時を待ちながら、宮殿を守り続けている執事、ダイス。今はティレニアの議長補佐だが、本属は帝国神軍である、マリア・モール。同じく身分を偽りティレニアに潜伏している司祭、クリス・リーチェル。ティレニアと帝国を行き来している放浪教皇、アモン・シーモア。
お忍びで帝国から出向いた帝国神軍軍総、リセイ・オルレアン。だが、今は東国の動きを警戒して、警備兵フレアンの姿で居る。
宮殿の最上階にある大部屋は、ダイス以外が立ち入ったことはない。それは……その部屋が誰のために用意されたものか、明確であるからだ。誰も入れないその領域とは――
精霊の王、アムリアの為にある部屋
9話 ╋ 過去 ╋
最上階の大部屋は『天の間』とされ、使用人たちは近づくことはなかった。だが今はそこに眠る一人の少女を囲って、数人が部屋に入っている。大きな窓の傍に置かれたダブルサイズの寝台に横たわるは、幼さ残る少女、コウである。
その傍らで、カルロは心配そうにコウを見つめていた。
マリアが寝台の横に用意した、一人掛けの椅子に腰掛ける男は、視線をコウに向けたまま放さない。
ダイスはコウが起きたときの為に、何か食べるものを作ってくると言って部屋を出た。
マリアは通常通り生徒達の講義をしに、クリスはもう一度森の様子を確認すると言って、それぞれ出ていった。
アモンは、議長等からこってり絞られている頃だろう……。
つまり今この『天の間』に居るのは、カルロとリセイ、それから未だ眠り続けるコウの3人のみだった。
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