7話 戦い11 コウは祭壇の頂上まで全速力で駆け上り、漸くたどり着いた所だった。 だがクリスは上る途中で思わぬ邪魔、レンが入り、交戦していた。 男はコウの姿を見るなり、突然こちらへ向かってきた。コウはナティアだけでも壇上から下ろそうと、ナティアに向かっていく。 双方の行動を見ていた古の精霊は、その時絶対的な存在に気付いた。 男はコウに斬りかかる。 コウはそれを鞘で受け、撥ね付けると、その衝撃で男は体ごと吹き飛んだ。 隙を逃さず、コウは男の左腕を切り落とす。 ──と思いきや、男は身を反転させ、その一撃を防いだ。 コウはバッと男から離れ、ナティアの腕を掴んで階段へと向かう。 一撃をかろうじて避けた男は、それでも容赦なく流れる血を抑えながら、二人を追った。 腕を引っ張られながら走るナティアは、目の前の少年を見て涙ぐみながら呟いた。 「カイルっ、どうしてっ」 「どうしてって……」 そんなことを聞かれても、コウだってどうしてこんなことになったのか判っていない。恐らくあの東国の男の所為であることに間違いはないはずだが。 コウ達が階段を下りようとした時、目下にはクリスとレンの壮絶な戦いが繰り広げられていた。 クリスは素手だが、相手は王族の右腕。 女の力では限界がある。 クリスの助けに入るべきか、このままナティアを連れて祭壇を降りるか迷ってしまい、一瞬動きを止める。 その間にも後方から男が追ってきている。 あの男は強い。まともに戦って勝てる相手ではなかった。 コウは脳を振り絞って最良の方法を考えていた。 だが、そんなことは無意味に終わってしまう。たとえあの男を殺せたとしても、ここから逃げる術はないと悟った。 いや、悟らされたのだ。 目の前にいつの間にか集結していた、見慣れぬ武具を着て龍の旗を掲げた戦士達に。 彼らを見て、クリスも戦意をなくしてしまった。コウ達に明らかな敵意を向け、祭壇の周囲を囲っている戦士の軍団。 彼らが持つ旗は東大陸のセニア王国のものであった。 「いつのまに……」 クリスは、祭壇を隙間無く囲っている東国精鋭兵に絶望する。 レンは「ようやく援軍が来たか」と言い、軍の群れへ向かう。ナティアは目前の兵士に驚き声をあげ、コウの手を振り払い階段から離れようと再び祭壇へ走って行ってしまった。 「待てっ! ナティア!」 コウはナティアを追いかけようと振り返るが、ナティアは既に男の腕の中に居た。 震えながらしゃがみこむナティアを、男は放置し、こちらに歩み寄る。 下手に抵抗できなくなった。 階段の中ほどにいたクリスも、コウの傍まで走る。二人は背中合わせになって敵陣を睨む。 お互い反対側を向いたまま、クリスが力無く呟いた。 「コウ様、申し訳ございません。私の考えが甘かったばかりに、このような失態を」 「クリスさん、そんなこと言わないで。貴女の所為じゃないわ」 「しかし……」 クリスは苦い顔をしたまま俯く。コウはクリスを気にしながらも、祭壇周辺の敵兵達と、祭壇上の男を見回した。 男の傍にはナティアが、その後ろには古の精霊が黙って現状を見据えている。 [戻る] |