7話 戦い10 頂上では眩い光が放たれ続けていたが、目が慣れてきた男は光の中心に居る何かに気付く。 それは、人の形をしているが、明らかに人ではない雰囲気を出していた。その人ではない何かは、水晶の上に座り、男とナティアを見ている。 男はそれにフラフラと近寄り、目の前で崩れ落ちた。そして震える声で問いかける。 「あなたが古の神・フェザールーンなのか?」 『……』 「答えられよ! 風の神!」 男は捨て身の覚悟でいるようだ。古の精霊に直接会うなど歴史上ありえないことだった。 それでも貧困に喘ぐ民のため、戦に勝つ力を得るため、彼は必死であった。 そんな男を見下しなが、精霊は重たい口を開く。 『いかにも私が風を支配する古の神と呼ばれている』 「ああ、やはり……! 古の神よ! ようやくお会いできた!」 その言葉を聞けて、男は命拾いしたかのように安堵した。間違いではなかった。調べ通り、このリストの森に古の神が存在していた! 古の精霊はまた黙り込んだ。男は今までの緊張のせいか、体が震えている。 ナティアはただ呆然と古の精霊を見つめていた。精霊はその視線に気付いてはいたが、そちらを見ることはなかった。 ただ、辺りを見回し、確認したうえで男に問うた。 『我らの王はどこにいる』 「は、王はそこに」 男はナティアを指す。古の精霊は初めてナティアを見た。目が合ったナティアは、嬉しくなって精霊に声をかけようとしたが、次の一声で絶望の淵に立たされた。 『ふざけておるのか?』 「……え?」 古の精霊の予想外の言葉に、ナティアは急に自信をなくした。そして激しく狼狽し最早言葉など発する余裕がなかった。 自分で自分を信じれなかったから、せめて自分を「アムリア」だと断言するこの男だけは信用していた。 だが肝心の古の神に否定されては、何のためにここまで来たのかわからない。カイルと犠牲にしてまで。 『ふむ、確かに気配がしたのだが』 古の精霊は難しそうな顔をして考え込んだ。封印からは目覚めておらず、まだ深い眠りから起きて間もないので、力の加減がよく判らない…。 精霊の王の気配を読もうとしても、近くにいるという確証しか持てなかった。 「風の神よ、確かにアレは王としては器の足らぬ者ですが、アムリアであることに変わりは――」 『この虚けが』 「……は」 精霊はひどく哀れなモノを見るかのように男を見下した。誰に判断がつかずとも、どんな完璧な偽りを見せようと、精霊にはわかる。 誰が自分達の王なのか。ここにいる者は王であるのか。いくら力が戻っていないからといっても、それくらいは見分けがつく。 見分けられないのは人間だけだった。 男は何を言われているのか全く判っていなかった。 あまりに恐れ多いという思いでいっぱいだったナティアは、精霊に背を向けて縮こまっていた。その目には何も映せないほど気が動転していたナティアに、聞き覚えのある声が届く。 「ナティアッ!!」 ナティアは顔を上げる。涙で前をはっきり確認することは出来ないが、声で判った。 壇上へ駆け上がるその白い少年は、もう死んでしまったと思っていた。 「カイル……?」 [戻る] |