15話 後夜 少しまずい事になったかもしれない。じゃり、と靴で砂を擦りながら、逃げる裁断を考えていた。何か、何でもいいから、彼女の意識を他に向けなければ。 「ナティア、私この間見たのよ。貴方が白髪の少年と司祭と一緒に正門に居る所を。あの場で別れたみたいだったけど、何かあったの?」 「そう……見てたの。あの時ね、司祭と少年と一緒に森に行ってたの」 一呼吸置いて、彼女は言い放った。 「わかる? 神狩りよ」 「神……狩り?」 「そ、古の神って知ってるかしら。強大な力を持った精霊ですって。私司祭達が話してるの聞いちゃってさ、興味本位に行ったの」 得意げに話す彼女にだんだんと苛立ちを覚える。 「神に、会えたの?」 ナティアは少しの動揺を見せた。本当は知ってる。けれど、まさか彼女の目的が「神狩り」なんていう、物騒な目的だったなんて。 「会えたわ、当然よ」 「そう。狩れた?」 今度は彼女の返事がない。あのときは色々と恐い思いもしただろうし、もうそんな気にならないといいんだけれど。だが、彼女の目には静かな火が灯っていた。 「あなた、今自分が言った意味わかってる? 精霊の恩恵を得ている私達が、神狩りなんてやっていいと思ってるの? 本当に馬鹿なのね」 「いいとは思ってないけど」 「ふふ、ばかな子。このまま無事にすむと思ってる?」 視界が暗くなった。会場の照明が遮断されたのだ。 「ナティア、俺達もう待てねぇよ、いいだろ?」 「いいわよ、もう用ないから、適当なところに連れてっちゃって」 「了解。だってさ、ばか子チャン残念でした」 頭の悪そうなしゃべり方をする取り巻きども。ああ、今から起こることが簡単に想像できる。男共は周囲を囲んで、門の外へと促してきた。だが、抵抗はしなかった。ただ、心の中で、何かが静かに沸々と湧き上がっていた。 ナティアは男どもの群れから抜けて、会場の中を歩いていた。 「ナティア! こんな所にいたぁ……あれ? 男達は?」 「お楽しみの最中よ、門の外へ行ったわ」 「なぁんだ。ナティア? 顔色悪くない?」 「平気」 ナティアの顔色がすぐれないことに疑問を持ったが、男が居ないと判るとすぐ何処かへ行ってしまった。どうやら彼女の友達だったらしい。彼女自身が「友達」と解釈しているかは別として。 「私は……特別になりたいの」 あの時、神狩りなんて本当は止めようと思ってた。なのに東国の兵が来て、私を「精霊の王」と間違えて。 判ってる。本当は判ってる。私はあの場に相わしくないことくらい。だけどそれでも私は相応しい人間になりたい。そう思ってしまったの。 だから、 周りを堕とすの。 騙すの。 それは悪い事じゃないわ。 私が生きるには、それしかない。 望みを叶えるのは、 それしかないの……。 ←前へ|次へ→ [戻る] |