21話 海賊船 ===== 船長室内 ===== 「珍しい物が手に入ったらしいな。どれ、見せてみろ」 「かなり貴重なものだ。そうは無いぞ」 船長は怪しげに笑う。対する男は冷静だ。 だが、袋から出された小さな檻を見て、訝しげな顔をする。 「……何だ? この小鳥は」 「精霊だ」 「!? 精霊!? これが…」 男は珍しい物を見るように凝視している。 中に入っているのは、黄色の小鳥。ルーンだ。だが、彼女は何もしない。何の抵抗もみせない。普通囚われていたら、逃げ出そうとするものだ。 それに、精神体の精霊を、檻で捕まえれるはずがない。 「初めて見るだろう? この檻は以前西国で手に入れたものでな、精霊の一切の力を失くすらしい」 「そんなものがあるのか、凄いな…。どうりで俺にも見えるわけだ。檻の中では普通の動物と変わらん、ということか」 「…さて、ユーリック、いくらで買う?」 ユーリックと呼ばれたその男は、少々難しい顔をしながら唸る。船長はぎらぎらとした目で男を見つめる。 それは欲に目がくらんだ男の姿…――。 船長は、珍しい物も好きだが、それを高く売りさばくのも趣味だ。そういう闇売買の仲間が海の上には大勢いる。 ユーリックもその中の一人。だが、彼は少し違っていた。珍しい物は好きだが、あまり外道な事は好まない。 ――この精霊、このまま誰かに売られ、挙句の果てには殺されるのだろうか。 ユーリックの表情は強張る。 この男の事だ。そう易々とは売らんだろう。 「1億2000万パル」 提示された破格の取引金額に、船長はたまげた顔をした。 そして何度か聞きなおし、やはりその金額であることに間違いないと判ると…―― 「よっし! あんたに売った!」 船長はご機嫌だ。そしてワインを取り出し、「飲め」と勧める。 ユーリックも素直にそれを受け取る。 今日は出発の日。昼間から無礼講であった。 こういう事に慣れないコウは、酒臭い男共の世話をしながら「早く帰りたい」と思っていた。 1億2000万パル=1000万円。この金額で精霊が売買される事はありえないことだった。このユーリックという男西国では名の知れた商人。そして一見心優しそうな青年。でもその実態は…… ←前へ|次へ→ [戻る] |