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26話 暗流


 闇の支配する時刻、王城の上階にある一室の前に若い男が立っていた。彼は大きな扉を軽くたたき、慣れた様に話しかける。

「姉上、入ります」

「どうぞ」

 返事が返ってくると、彼は部屋の中に入っていった。


 26話 暗流


 ここは東大陸の中央に位置する、王都シーバ。中心にはセニア王国の王城がある。

 セニア王国は帝国と停戦状態にあるが、帝国に比べて民の暮らしは酷い有様だった。

 それを改善しようと奮闘しているのが、二人の王族、王女ローズと王子ルクード。彼らは病気を持つ父王に代わって政治や軍事を行っている。

 つまり今はもう父王は政治に関与していない……はずだった。だが最近になって、父王の様子がおかしい事にローズは気付き始めていた。

「姉上、こんな時間にどうされたのですか」

 彼は当然の疑問を放つ。姉上、と呼ばれた女性は、躊躇いがちに言った。

「ルクード。お前に話しておくことがある」

 重々しく切り出され、ルクードは少し真剣な表情をした。家臣に対して常に厳格な態度をとる彼は、姉の前でだけは心を落ち着かせていた。

 だが今日の姉の様子は、明らかにおかしい。彼はそれを察した。

「何か気になることでもおありですか?」

「まあ、な。父上の事だが、あまりいいことではないので人目を避けたのだ。夜分にすまなかったな」

「いえ、私は一向に構いません。それより……父上が、何か?」

 まさか、その人物の名が出てくるとは思わなかったらしい。ルクードは戸惑いながら真意を尋ねる。

 それに対し、ローズは苦い顔をした。

「最近な、この城を出入りしている者がいるのだ。それも、人間ではない」

「……? それは、敵、ということですか?」

 その質問に、いささか躊躇うローズだった。だが、話さなければ前には進めない。

 非常に言いづらそうに、彼女は言葉を紡いだ。

「敵か味方かは判らない。だが、特に目立った騒動もないので“敵”という線は薄いだろう。それよりも、その客人を“誰が”招き入れているかが問題なんだ」

 ルクードは話の流れからして、その招いた人間が父王であると疑っているのは判った。だが、そう思う根拠が見当たらない。

「姉上、その客人と父上と、どういう繋がりが……」

「察しがいいな、さすが我が弟だ。繋がり、か。それがはっきりすれば楽なんだがな」

「では、まだ父上と決まった訳ではないのですね?」

 ルクードは父を尊敬していた。あの帝国と渡り合った父王はセニア国の英雄として称えられてきた。

 純粋に父が好きだった彼は、姉の疑心が信じられなかった。

「憶測で判断したくはないさ。だが、もし父上が関与しているなら意図を掴んでおかなければなるまい」

「では、私が行って潔白を証明して……」

 ルクードがそう言いかけたとき、部屋の扉が開いた。

 不意を付かれた為、ルクードは俊敏に向き返る。

 入り口に立っていたのは、見知った人物だった。それは女性で、淡い赤の瞳を揺らしながら部屋に入ってくる。

「王子、それはおやめください」

「レジェンダ? お前何故ここに……」

「ローズ様にここへ来るようにと命ぜられましたので」

 淡々と話す彼女は、レジェンダ・スノーウェル。ルクード王子の4人の守護の一人だ。

「レジェンダ、止めろというが……何故だ?」

 ルクードは話を戻す。真相が判らないような事で、父王を疑うなどしてはならない。まだ彼の心に疑心はなかった。

「ルクード様、私は事を荒立ててはならないと申し上げたいのです」

「その通りだ、弟よ。我々はまだ何も調べがついていない。その客人が“良き者”なら問題はないが、“悪しき者”だとすれば……」

 ローズは言葉を止めた。続く言葉を躊躇っているかの様だった。

「悪しき者とは、どういうことですか?」

「……つまりはな、父王が他国に対し、勝手に手出しをしていたら、ということだ」



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あきゅろす。
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