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42話:27


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日が沈み、荒野が枯れ果てた姿を闇に隠すころ、コウは肌掛けを羽織りバルコニーへ出て夕暮れを眺めていた。

ティレニアよりも北方の帝国領は今の時期から次第に気温が下がり、やがて雪で村が埋め尽くされるほどの寒い冬がやってくる。


初冬のこの時期、コウは肌寒い風を肩に感じながら、じっと外を見渡していた。

コウがいるのは帝国領北方の砦、クロス城である。

その名に全く覚えがなかったコウは初め、クロス城に滞在することを強く拒んでいた。

確かに城は安全なのかもしれないが、そんなことなどコウには関係なかった。
ただ、帰る所がリセイと同じであればいいのにと密かに願っていただけなのだ。

──クロス城は、リセイ様が幼少の頃より過ごされた場所なのですよ──

帰城を躊躇っていたコウにそう言い添えたのはクリスだった。

たったそれだけのことで何の抵抗もなく、寧ろ好んでクロス城に赴こうとするなど、自分もなかなか単純だと思う。

「……寒い」


ぼんやりしている間に、すっかり日は暮れ、闇空から星の光が浮かび始めた。

だが、室内に入る気にはなれなかった。

羽織りをぎゅっと握りしめ、何かを待つかのように、密やかに目を閉じる。

睫毛が震えるほどの寒さも、それすら愛しくなるほどに、コウは瞼の裏に思い描いてみた。──彼の、リセイの顔を。

今頃どんな顔をしているだろう。勝手に城を飛び出たことを怒っているだろうか。それとも、アークを寄越したくらいだからこの逃亡は全て筒抜けだった訳で、懲りない自分に呆れ果てているのか。

どちらでもいい。

ただ、彼が自分のことを気にしてくれさえすれば、それで──。



「風邪をひかれてしまいますよ、コウ様」

声の方を見やると、部屋着に着替えたクリスだった。ゆったりとした長めのワンピースに、羊毛で誂えたストールを羽織っている。色は上下を黒に統一していた。

クリスは部屋に入ると、バルコニーからなかなか出ないコウの側へ行き、冷えた手をそっと握りしめた。

「ここは冷えます。中の暖炉で体を暖めましょう」

「……」

「……コウ様?」

「……あの……」

言いかけて止めたコウが何を気にしているのかクリスは直ぐに分かったらしく、少し言い澱んだ。

「コウ様……」

「うん。分かってはいるのよ」

言い当てられるより先に、コウが心中を告げた。

「リセイはここには来ないんでしょう。と言うか、きっとあの城から出られない……」

「それは……確かにそうかも知れませんが、リセイ様がアークや私をあなたの護衛に当てたことの意味を、どうかお分かりください」

クリスはコウを部屋に引き入れ、少し震えた肩を暖めるようにそっと触れた。

「皇太子の側近を二人もお付けになられた、その意味を」

「……」

「コウ様。リセイ様は本当に心配されているのですよ。あなたが傷ついたり寂しい思いをしていないか、気が気でしょうがないのです。私の予想だとたぶん……今夜は一睡も出来ないと思いますよ、あの方」

言葉の最後に、クリスは優しく微笑んだ。

淡い火の明かりに照らされた美しい横顔。クリスの青い瞳には揺れる炎が映っていた。

瞬きの後、彼女はまた笑った。

「これではグレイも休む暇がないな」

「……ん?」

「いえ……、リセイ様は不眠不休で働くことが多くて、10日ほど徹夜続きのときはさすがのグレイもリセイ様の身を案じましてね。毎夜子守唄を歌う羽目になったのですよ」

まるで正反対のものを一つにまとめて投げつけられた気分だ。

あの、冷徹で愛想のない、悪魔にすら見間違えるような男が、リセイ相手に子守唄とは。



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あきゅろす。
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