42話:20
彼は死族を骸骨で表現するのは嫌いだと言った。元々はっきりした形をもたない精霊を、ある一方の観点だけで捉えるのは不自然だとも付け加えた。
「だって絶対毛があった方が格好ええし」
「貴方、死族と契約したの……?」
そう問いかけると、アシュラは突然吹き出した。
「バッカだね精霊王、俺が死族なんかと契約する訳ないやん。それに死族を操るなら一番手っ取り早い方法があるしね」
アシュラが怪しい笑みを浮かべた直後、上空から一対の黒い翼が舞い降りた。
彼に寄り添うようにして現れたのは、小麦色の肌をした女の翼人で、目の部分はアシュラと同じく動物の頭蓋骨で覆われていた。
「こいつが俺の相棒」
「死族を操れるのは天精霊だけだと聞いたけど」
「そうや。こいつは紛れも無く天の力を持つ精霊。けど、まあ見た目同様中身も堕天使そのものやけどな」
――俺がいっぱい殺させたから。
そう得意げに答える彼の動向は完全に開いていた。
殺し合いが楽しくて楽しくて仕方が無いとでも言う様に、体を小刻みに震わせ殺意をコウにぶつけた。
「殺りたいなぁ、精霊王。……けど、お前も生かしておけって言われてるんだっけ」
そのことを今思い出したのか、アシュラは打って変わって不機嫌な顔に変貌した。
「ま、死なんかったらええってことやろ。手足もぐくらいなら大丈夫、死ねんから」
そう一人で納得して、再びコウを視界に収めた。
その瞬間、ゾクリと身の毛もよだつ恐怖を感じた。
『コウ、下がっていなさい』
「でもカルロ……もしかして、貴方達にとって死族は天敵なんじゃ……」
『……我々は古の精霊ですよ、コウ。人間の操る死族などにやられる筈がないでしょう』
確かにそうかもしれないが、それはカルディアロスが完全体であればの話ではないだろうか。
相変わらず心中の読めない笑みを向けてくるのは彼の得意技で、コウはますます心配になった。
「じゃ、いくよー」
陽気な声で先手を放ったアシュラは、8匹の死獣にそれぞれを襲わせた。
ルーンは風の刃で抵抗するが、それが腹に刺さろうと頭を貫こうと向かってくるのが死族である。
『フェザールーン、貴女は彼女達の護衛を。死獣は私が引き止めます』
『……わかった!』
ルーンがコウとリナを抱えて上空に避難したのを確認すると、カルディアロスはそそり立つ一本の巨木に手を沿え、神の力を込めた。
すると幹や枝から次々と新しい枝が生えた。その速さは尋常ではない。目にも留まらぬ程で、生えた枝や根は段々と太さを増し、強固な壁となって死獣の行く手を阻んだ。
その石の様な硬い根からまた新たな木々が伸び、死獣を襲ってゆく。
篭城は彼の最も得意とする戦い方だ。
死族の攻撃を見事に防いだカルディアロスだが、護るべき相手から少し目を放したその隙に、飛竜を足場に上空へ駆け昇ったのはアシュラだった。
『フェザールーン! 上です!』
そう叫ぶが先か、アシュラの牙が届く間際でルーンは身を捻り攻撃を交わした。
僅かに羽を掠めたのは三日月型の得物である。この勢いなら容易く首が飛ぶだろう。
二人を抱えたままでは動きにくいのか、風を駆使するが相手の素早い動きを完全に避けることは出来ない。
刃は無惨にもルーンの美しい羽を切り刻んでいった。
「ルーン、このままじゃ太刀打ち出来ないよ! 降りよう!?」
『駄目だぞコウ嬢! 下にはまだ沢山死獣がいる。それに……飛竜の格好の的になってしまうぞ!』
「でもっ、このままじゃルーンが……!」
心配するコウに『大丈夫だ』と力強く答えたルーンだが、三日月の刃は容赦なく猛攻撃を仕掛けてきた。
『二人とも、捕まってろ!』
ルーンは風を集め、もの凄い勢いで竜巻を起こした。風圧に流されて刃がコウ逹に届くことはなかったが、それで多量の精神を消耗した風神は思わずグラリと体勢を崩してしまった。
その隙を逃すまいと、アシュラは口元を更に怪しく吊り上げ、首に掛けた髑髏を投げつけた。
「残念やな。逃げ場なんか無いし……さっさと堕ちろ!」
鋭い刺が四方八方に乱れ咲き、空中で防御する風鳥へと一直線に向かった。
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