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42話:13

「リナ、だからって……忘れることが出来るの?」

「……」

「役に立ちたいっていう気持ち、分かるよ……私もそうだから」

そう言うと、リナは意外だという風に何度か瞬きをした。

「私も自分に出来ることは何でもしてあげたい。背負わせて欲しい。だけどいっつも変なことやらかして、逆に迷惑かけちゃって……。いい加減嫌われちゃっても仕方ないとは思ってるんだけどね」

コウはふにゃりと笑う。彼女らしくもない、とても弱気な発言だ。

もっと強い人だと思っていた。リナの中で精霊王の存在はとても大きくて、普通の人間では超えられない力の壁があって、出来ないことなど何もないのだろうとさえ思っていたほどだ。

「まあ……コウさん、だけどその方はきっと貴女のそういうところを守ったり手を貸したりすることが好きなんだと思いますけど」

「ぇえ? 嘘だぁそんなの。絶対「またか」って呆れてると思うよ?」

「あら、そんなことを決め付けてはいけませんわ。コウさんは色んな人を助けたくて動いているんですもの、私はそういうところ、とっても好きです」

「そ、そう?」

「ええ、勿論! だからきっと……」

“貴女は役立たずなんかじゃない”

コウに対して言おうとした言葉が、何故か自分の心に向けられたようだった。

胸の中が陽だまりのように温かくなる。

失敗して、無茶なことをして、思うように進むことが出来なくても、それは無駄ではない。
そんな風に一生懸命な姿が、誰かを励まし、変えているかもしれないのだから。

「コウさん……」

「あ、このジャムめちゃくちゃ美味しい! リナの手作りよね? すっごい! いいお嫁さんになるよー」

「ふふっ、もう、そんなこと言って……たくさんあるから遠慮せずに食べてくださいな」

「ありがとう!」

落ち込んでいた自分が嘘みたいだった。

殻に閉じこもってばかりの自分が馬鹿馬鹿しく思えた。

こうして言葉にすれば、何てことない、普通の女の子が持つ悩みだったのだと。


 *****


砂利道に二人分の足跡が残されていた。

「馬鹿ヤローが。出かけるのはいいが俺に黙って、とはどういうことだよ」

地面に向かってそう吐き捨て、男は腹立たしそうに砂利を蹴った。



ほんの数分前のことだ。
コウという少女がクルエラの村を訪れたらしいと連絡を受け、村の守備兵として配置されていたケイン=レセプトは徐に立ち上がった。

「コウが来ただって!?」

そう声を荒げると、報告してきた兵士がすっかり萎縮してしまい、上ずった声で「間違いありません」と答えた。

何故、この村を訪ねたのか。理由は一つしかないだろう。

「そういやあいつもあの時エルメア城に居たんだったかな。牢獄を抜け出したと聞いていたが、ここに来たということはまあ……帝都で上手いことやったんだろうが」

今、コウはリナの家で話をしていると聞き、ケインはどうするかな、と一考した。
帝都から遥々こんな辺境の村まで来たのだ、何か重要なことを話しに来たのかもしれない。ただ相手がコウなだけに重要度は自然と落ちてしまうのは否めない。

二人の間に自分が介入しても良いものだろうか。

云々と考えた結果、やはりリナの様子が知りたいという結論に至り、ケインは早々に彼女たちの元へ向かった。

そうして家まで来たというのに、中から人の気配がしない。呼んでも返事はない。可笑しいと思って部屋を覗くと、そこで話をしているはずの二人が忽然と居なくなっていたのだ。

ケインは大層慌てた。
最近気が付いたことだが、リナもアムリアに負けず劣らず無茶なところがある。気になることがあると直ぐ確かめようとするし、誰かを助ける為に平気で体を張ったりする。

そんなリナと、騒動の根源とも言えるコウが二人そろって姿を消したのだ。焦って当然である。

「馬鹿が! この辺はまだ十分警備が行渡っていないんだぞ。もし何かあったらどうする……!」

苛立ちを声にして吐き出し、ケインは村中を探し始めた。



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あきゅろす。
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