[携帯モード] [URL送信]
42話:10



 *****


ヘルトは真実を話し終えた後、少しの間コウ達の部屋を離れた。

聖軍の指揮官が帝都に到着したとの知らせが入り、是非一度会っておきたいと軍部を訪れたのだが、先客がいたらしく、ヘルトは仕方なく一度コウの部屋へ戻ることにしたのだった。

戻って、最初に目に映った光景に、ヘルトは首を傾げてしまった。

「……サラ? 何を、やっているんだい?」

「はっ! お、お兄様!」

ヘルトの方へ振り返ったサラは、両手に持っていた大きな鞄を落とした。それを慌てて拾い、後ろ手に隠しているようだがあまり意味は無い。

服装も、先程のゆったりした格好とは随分違う。硬い甲冑で胸元を保護し、ぴたりと肌に密着した上服と、丈の短いスカート。腰には短剣まで差してある。

まるでこれから旅に出るかのようだ。

「我々がどんな時も必ず見張られているのは知っているね?」

「そ、それは勿論です、お兄様」

「では何故、その様な格好をして、コウさんの姿も見当たらないのか、説明してくれるね? サラ」

とても隠し通せる雰囲気ではない。サラは早々に降参し、数分前の出来事を話した。



「何だって? あの子がエルメアへ向かった!?」

「え、ええ。そうなの、お兄様。一度は止めたのだけど、どうしても会いたいと言うものだから」

ヘルトは頭を抱えた。彼女にも言いたいことは山ほどあるが、妹のサラまでこうも甘くなっていたとは。
基本的にコウの周りにいる者達は彼女に対して非常に寛容だ。

「それでは、エルメア城の近くの村へ、人に会いに行ったというんだね」

「そうなの。だから私もこっそり後をつけようかなって」

サラは自分の格好を強調してみせた。

「はあ……まあたぶん、護衛は必要ないのだろうけどね。全くあの子は」

「必要ないって……お兄様?」

「我々より先に帝国が護衛をつけているはずだよ」

「そんな! だって、城を抜け出すときは周りに誰も居ないことを確認して行ったわ。影の気配なんて少しもなかったもの!」

「そんなはずはないと思うけれど……」

言葉の途中で扉を叩く音がした。

会話を断ち切り、どうぞと促せば、直ぐに扉は開かれた。

尋ね人はリセイであった。

「ちょうどよかったよ。今コウさんの話をしていてね」

「ああ、アークが後を追っている。もう見つけた頃だろう」

やはりそうだったかとヘルトは安堵した。

そのやり取りの間に、リセイの放った闇の精霊が戻ってきたようだ。彼はアークからの言伝を受け取り、再び外へと放った。

「コウは無事のようだ。以後エルメアまでの道中はアークと闇精霊の守護がある。心配ないだろう」

いつも通りの手際の良さに、ヘルトは素直に感心した。

さすがは覇王と恐れられただけはある。彼はコウが城を抜け出すことを予期していたのだろうか。

その問いに答えるリセイは、外れたことのない勘にむしろ嫌気がさしている口ぶりだった。

「カイリが単身で帝都に来たからな。心配なんだろう、村に残されたリナという娘のことが」

「そうだったんだね……。それにしても一言私に言ってくれてもいいものだけれど」

「そういうところはまだ自覚が足りていないらしい」

「君が甘やかすからだろうね」

「よく言われる」

責めたつもりが、簡単に受け止められてしまった。ヘルトには面白くない掛け合いだったが、互いに笑みは崩さない。

リセイはもう一つ、手に入れたばかりの情報を伝えた。

「ヘルト、逃れた氷精霊の欠片が北大陸の氷山に向かったとの連絡があった。ある程度場所も特定出来ているが、どうする?」

途端にヘルトの笑みが固まった。

深く考えるほどの余裕はないようで、ヘルトはぽつぽつと声を落としていく。

「今は……あの娘にどんな顔をして会えばいいのか分からなくてね。今はまだ会えない、……かな」

思い出す度に悔やまれたのだろう。
ヘルトが全てを賭けて放った一撃が、あれ程苦も無く跳ね返され、氷の力まで奪われてしまうなど憤死に値する。

プライドの高い彼なら、なおさらだ。

ヘルトの目に黒い影が宿ったのを察し、瞬時に話題を変えた。

「見張りの兵は半分に減らしてある。城内の図書館も開放しておいたから、好きな時に使ってくれ」

「ありがとう。色々と」

「いや、こちらこそすまなかった。もう少し早く抜け出せていれば他の手もあったのだが」

「いいんだよ、我々はもう十分君達の世話になっているからね」

“だから、彼には全力であの子を守ってあげて欲しい”
それがヘルトの密やかな願いなのかも知れない。




←前へ次へ→

10/61ページ

[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!