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42話:09 頼りになる男


 *****


帝都の城門に数百の歩兵が待機していた。

先ほどから町人の興味を一心に引いている彼らは、聖軍旗を高らかに掲げていた。

先に帝都へ到着していたディアス率いる騎士隊が迎える中、厳かな甲冑を身に纏った男が城門を潜った。

聖軍総指揮官カイリ=エディン。
彼は騎士隊と違って登城の勅命が降りた訳ではなかったが、周囲の不穏な動きの真相を探るために独断で来たのである。

彼は本城の5階、軍部の置かれた部屋に通された。

そこで彼を待ち受けていたのは、戦友と呼ぶに相応しい相手であった。

「遅れて済まなかった。どうしてもお前に伝えておくことがあったのだ」

どうやらカイリの方から呼び出したらしい。
先に軍部室で待っていたその相手は、穏やかな笑みを浮かべながらカイリを歓迎した。

「構わないさ。あまり宮廷に入り浸るのも息が詰まるからな」

「お前は皇族としての自覚が足りんのだ、リセイ」

「はは。その様子ではあまり驚かなかったようだな。俺がリアの血筋と聞いて」

「そんなもの、どうでも良いわ」

カイリは徐にソファに座り、足を組んで如何にも面倒そうな口調で言った。

「それより先に報告がある」

「聞こうか」

「明朝そちらの弓隊長が帝都へ来る途中、正体不明の一派と遭遇したらしい。一度戦闘になったが直ぐに相手が引いたそうだ」

カイリは用意されていた紅茶を一口含んだ。

「以前軍事機関から帰国していた帝国人を無作為に襲った一派がいたが、どうやら其れと似ていたらしい」

リセイは笑みを崩さず相槌を打つ。

「それで?」

「実はユニスティア弓隊の中に私の部下も付けておいた。護衛が不十分だと思ってな。そいつは2年前、北大陸へ遠征に向かわせた兵士の一人だ」

「北部遠征……兵士の殆どが心臓を抉られた状態で帰国したと聞いているが」

「その通りだ」

何故か踏ん反り返っているカイリの様子を見て、そろそろ会話に飽きてきたのだろうと察する。

「生き残りの一人でもあるその兵士によると、弓隊と遭遇した一派は北族とみて間違いないらしい。つまり、帝国船襲撃も北族が絡んでいるということだ」

「……」

「お前の予想は見事に当たったということだな」

最後の一滴まで紅茶を貪ると、カイリは満足げに腕組をした。
影で動いている連中の正体が明らかになったことで、彼の中の野獣が目を覚ましたようだ。
普段の彼は冷静で寡黙だが、裏には血の気の多い戦士の一面を持つ。

「カイリ、北族の目的は何だと思う?」

「俺に聞くな」

「あの船に教皇が乗っていたことは誰も知らなかったはずだ。司祭や賢者を狙ってのことではないだろう。弓隊との戦闘を避けた、ということはこちらを殲滅させる気もない。帝国兵を殺すことが目的というよりは、騒ぎを起こしてこちらの動向を探っているようにも思える」

「だから俺に聞くなと言っている」

「カイリ。一連に絡んでいるのが北の一族オーディンなら、彼らの最終目的は皇帝暗殺だ」

かちゃり、と陶器の重なる音がした。

「冗談……ではなさそうだな」

リセイもまた、体の前で手を組み、ひとつ重々しい息を吐いた。

「それを予期していながら北族を放置しておくのは皇族としてまずくはないのか?」

「謹慎では済まされないだろうな」

「……お前」

「あまり、あの一族と関わりたくはないんだ。出来るなら守備線を張るに留めたい」

「恐れている……訳ではなさそうだな。それは奴らと戦いたくないということか?」

リセイは静かに目を伏せた。

これは少々厄介なことになったのではないか、とカイリは眉を顰めた。

いつもの事だが、リセイは多くのものを守りすぎる節がある。カイリには到底理解できないことだ。

「……分かった。お前がそう言うなら、この件はこちらで処理しておく」

「すまない、カイリ」

「……ふん」

カイリはそれ以降一度も銀の男を見ようとはしなかった。

それも、暫くして特に話すこともないと感じると、カイリは容赦なく会話を断ち切り軍部室を出て行ってしまった。

用務であったとはいえ、自分から呼び出しておいて、この仕打ちである。

リセイは軽く溜息を吐き、相変わらずだと楽しげに呟いた。





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あきゅろす。
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